「サンタの正体〜クリスマス雑貨/前編」 2023年12月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘(5歳)・・・毎年家族で祝うクリスマスを2歳上の兄と共に心待ちにしている。25歳になった女性が少女の頃を思い出す
  • 父(37歳)・・・クリスマスを楽しみにしている子供たちのために毎年いろいろな趣向を凝らす。イルミネーションで飾られた家は近所でも有名だった

Story〜「サンタの正体〜クリスマス雑貨/前編」

<シーン1/2003年12月24日>
全員:さん、にい、いち、点灯!
(家族の歓声と拍手)
娘:「わぁ〜!
きれい・・・」
父:「さあ、これでクリスマスの準備はパーフェクトだ!」
娘:今から21年前。リビングの小さなツリーに灯りがともった。
毎年この季節を心待ちにしていた少女が目を輝かせる。
父:「今年もサンタさん、来てくれるといいね」
娘:「うん。でも大丈夫かなあ。
ちゃんとうちのこと覚えてくれているかなあ」
父:「心配いらないよ。きっと来てくれるから
娘:「だけどだけど、夏におうちの屋根修理しちゃったでしょ。
サンタさん、迷っちゃうかもしれない」
父:「だから、お庭と玄関にイルミネーションをともすんだよ」
娘:「じゃあ今年は早めにイルミネーションともして」
父:「わかってる。今から準備するところ」
娘:実は、我が家のイルミネーションは近所でも有名だった。
玄関周りをライトアップするだけでなく、
庭の大きなモミの木や、桜や梅、紫陽花やツツジまで
鮮やかな光に包まれる。
それだけじゃない。
まるで絵を描くように、高い外壁には雪の結晶やスノーマンたちが光り輝き、
父の手作りの仕掛けの中で、トナカイが走っていた。
絡まるツタも星座のように瞬き、父のこだわりで私の魚座が
真ん中で煌めいている。
屋根の下からはつららのような光の粒が降ってきた。
毎年クリスマスシーズンになると、華かやな光に誘われて
見知らぬカップルたちが我が家のイルミネーションの下(もと)に集まってくる。
父も母も、庭に入ってくる男女をとがめることなく、微笑ましく眺めていた。
思えば、いい時代だったんだなあ。
父:「いいよいいよ、家具屋さんだって早仕舞いはしないから」
娘:「うん!」
父:「えらいぞ。きっとサンタさんも褒めてくれるよ」
娘:喜んで掃き出し窓から庭へ出ようとする私に父が声をかける。
父:「ちょっと待って」
娘:「なぁに?」
父:「お庭のイルミネーションの前にリビングの飾りつけも仕上げないと」
娘:「リビング?」
父:「ああ。さてと・・・
これはなぁんだ?」
娘:「あ!スノーマン!」
父:「そう、スノーマンの形をした灯りだよ
これをまず、ツリーの横のキャビネットに飾ってくれる?」
娘:「はぁい」
父:「飾ったら灯りをともして」
娘:「わあ」
父:「優しい灯りできれいだろう」
娘:私の背より少しだけ低い木製のキャビネットの上で、スノーマンの灯りは部屋を優しく照らした。
父:「次はこれ」
娘:「キャンドルだ」
父:「クリスマスだからね。真っ赤なキャンドルでお祝いしよう」
娘:「やった!」
父:「キャンドルはあと4本あるからね」
娘:「パパ、ママ、お姉ちゃん、お兄ちゃんと私の4人だから?」
父:「そうだね。いいかい、クリスマスまであと4週間あるだろう」
娘:「うん」
父:「これから毎週日曜に1本ずつキャンドルをともすんだよ」
娘:「うん」
父:「1本1本灯すたびに、ワクワクが大きくなっていく」
娘:「うん」
父:「海外ではね、そうやってクリスマスを迎えるんだって」
娘:「ふうん」
父:「さあ、最初のキャンドルに火をともそう」
娘:擦りガラスの燭台に私が置いた太めのキャンドル。
先日父が買ってきたウォールナットのキャビネットに光が映る。
ツリーのイルミネーションとの調和が見事だった。
父:「今年のプレゼントはもうサンタさんにお願いしたかい」
娘:「う〜ん」
父:「どうしたの?」
娘:「だってお兄ちゃんが絶対無理だって言うんだもの」
父:「なんだろうね、パパにだけこっそり教えてくれる?」
娘:「あのね、あのね・・・雪」
父:「雪?」
娘:「うん、雪。雪が見たいんだもん」
父:「そうかぁ、雪かあ。
これはサンタさんもがんばらないといけないな」
娘:「やっぱりだめかなあ・・・」
父:「だめじゃないよ。きっと叶えてくれるさ」
娘:自信にあふれた父の表情を見て、私は安心した。

このあとキャンドルに4回火が灯り、
最後のキャンドルに火をともす、クリスマスイブの夜が近づいてくる。

サンタさんは本当に来てくれるんだろうか?
私の無茶ぶりなお願いをきいてくれるんだろうか?

心配でたまらない私は兄に相談する。

”じゃあがんばってサンタさんをお迎えしよう”
”眠らないようにして、柱の影からこっそりと待ってみよう”

私たちは子どもながらに密かに計画を練った。

そして、イブの夜。

柱の影からツリーを見守る私たち兄妹の前で
リビングの扉が静かに開き、
赤い服を来たサンタが入ってくる。

”きた”
”しっ”

私たちがそこにいることも知らずに、
サンタはツリーの根もとに3つのプレゼントを置いた。

”でも、雪は?”

まだまだ不安でたまらない私は思わず一歩前へ出る。

フローリング越しに伝わる物音にサンタさんが振り向く。
その瞬間白いひげが床に落ちた。

”パパ?”

一瞬、驚いた表情をしたあと、
サンタさんの姿をした父が私たちの元へ歩いてくる。
兄も驚きを隠せず言葉が出ない。
サンタの父は、いつもの穏やかな表情で私たちに声をかける。
父:「パパじゃないよ」
娘:「え?」
父:「パパの姿をしているけど、私はサンタクロース。
イブの日とクリスマスは世界中の子どもたちのために大忙しなんだ。
だから、みんなのパパ・ママの体を借りて、プレゼントを届けにいくんだよ」
娘:「すごぉい!
でもでも、私のプレゼント、大丈夫だった?」
父:「もちろん、大丈夫だよ」
娘:「ホント!?でも・・・」
父:「心配なら、いまここであけてごらん」
娘:「いいの?」
父:「ああ、サンタの私が言うんだから問題ない」
娘:私は、おそるおそる包みをあける。
ていねいにあけようとするけれど、焦って包み紙を破ってしまう。
父:「急がなくてもいいから、ゆっくりあけるんだよ」
娘:包み紙の中から出てきたのは、真っ白な粉雪が舞うスノードーム。
屋根に雪が積もった小さなおうちと、女の子のお人形が楽しそうに笑っていた。
父:「これで合ってるかな」
娘:「うん!すごい!雪だぁ!」
父:「じゃあ、私はもう行かないと」
娘:「サンタさん、ありがとう!」
父:「パパによろしくな」
娘:そう言ってウインクしたあと、空を指差して、
父:「君はとってもいい子だから、特別なプレゼントも準備したからね」
娘:と、いたずらっぽく微笑んでサンタさんは出ていった。
窓の外には、鈴の音と笑い声が遠ざかっていく。
しばらく呆然としていた私たちは気がついて窓の方へ走る。
開け放たれた窓から顔を出すと、イルミネーションに白い息が照らされた。
空を見上げると、小さな白いものが降ってくる。
手のひらで溶けていくその結晶は、
娘:「雪だ・・・」
娘:あれは、今でも魔法だと思っている。
あのときの父の姿をしたサンタも。
奇跡が起きても不思議ではないのがクリスマスだから。
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