「言霊〜新生活/後編」 2024年2月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 父(45歳/56歳)・・・45歳当時は物流会社の課長だったが10年後に部長に。目の中に入れても痛くない娘が大学に合格。東京へ出て1人暮らしをするときに家族3人で家具を選んだ。父・母・娘それぞれの思いが詰まった家具とは・・・
  • 母(44歳/55歳)・・・専業主婦。父(夫)とは大学生時代にキャンパスで知り合った。娘の大学受験のときはつきっきりで勉強に付き合った。現在娘とは友達同士のような関係。
  • 娘(8歳/18歳/28歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。今日が自身の結婚式。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった

Story〜「言霊〜新生活/前編」

<シーン1:娘の新居/いま/父母娘>
母:「もう11年になるのね。いつまでも丈夫で素晴らしいわ」
妻が娘の新居で、独り言のように呟く。
なんのことかと思ったら、食卓テーブルのことらしい。
妻が腰をおろしている食卓は少し大きめの丸いテーブル。
母:「思い出すわねえ、11年前のあの日。
あら、ちょうど今日じゃなかったかしら?」
父:「ああ、そうかもしれないな。よく覚えてないけど」
母:「うそおっしゃい。ちゃんと覚えてるんでしょ」
父:やっぱり、妻はなんでもお見通しだ。
思えば11年前のこの日。娘の大学受験。合格発表の日だった。
<シーン2:11年前/合格発表の日>
父:いまどきは、合格発表をインターネットでするのか!と思いつつ、かく言う自分もキャンパスにいた先輩大学生に、合否を連絡してくださいとお願いしたんだった。
発表の日、電話の前で正座していつかかってくるかハラハラして待っていたなぁ。
「サクラサク」「サクラチル」
電話代節約なのか、まるで電報のように短い言葉で伝えてくる先輩。
なつかしいな。
あ、娘の話に戻そう、、、
丸テーブルで家族全員で発表を見たい!と言い出した。
(娘「丸テーブルで家族全員で発表を見たい!」)
そりゃ、いてもたってもいられないのはわかるけど。
朝から用事で出かけるというと、怪訝な顔をされた。
食卓は今までずうっと家族が集まってきた場所。丸い食卓テーブルでみんなで合格を祝うのが確かに一番うちらしい。
私はカバンに娘が欲しがっていたスマートウォッチを入れた。実は、もう合格を信じて、お祝いのプレゼントを買っていたんだ。
そうだ。娘の大好物、ふかし芋も出かける前に作っておいてやろう。さつまいもは冬の終わりまでが旬だからな。甘みたっぷりの地元のふかし芋だ。
娘の喜ぶ顔を想像して、つい口元がほころぶ。
私は蒸しあがったふかし芋を新聞紙に包み、ラップをかけて、さらにハンカチでくるみ、戸棚にしまった。
<シーン3:11年前/神社>
父:県内でも合格祈願で有名な大きな神社。家からは少し距離があるが、今日は朝からどうしてもここに来たかった。
拝殿に上がらせていただき、お祓いとお清めを受ける。
娘に買ったスマートウォッチと、娘の受験票。私の身も含めてすべて祓い、清めていただく。
大願成就の厳かな祝詞が流れ、頭を下げる。大長編の祝詞だが、その分ご利益も間違いないだろう。
お祓いが終わり、神社をあとにしたのが昼近く。今から帰れば合格発表の時間には十分間に合う。

途中、花屋さんでバラの花束を買う。
顔が隠れるくらい大きな大きな花束。周りの人たちがチラチラ私を横目で見る。
今頃、妻と娘は丸テーブルの前でお茶でも飲みながら、パソコンを開いていることだろう。

時計で時間を確かめると、発表1分前だ。私は花束を手に家へ向かう。大通りを抜け、信号を渡る。家はもう目の前だ。
10秒前。5秒前。
発表の時間になった。結果は見ない。最後まで娘を信じているから。

大きく深呼吸をして、電話をかける。1回。2回。3回のコールで娘が出た。
娘:「もしもし」
父:私は娘より先に、言葉をかける。
「おめでとう!やったな!」
娘:「うん!ありがとう、パパ」
父:いますぐ、お祝いしなきゃ
娘:「わかった。早く帰ってきて」
父:「もう帰ってるよ」
娘:「え?」
SE(家のドアチャイム「ピンポン!」)
父:私はインターフォンを押した。
SE(ドアが開く音)
父:チェーンをはずしてドアが開く。
ドアの向こうには、瞳を潤ませた娘が立っていた。
感無量の表情で私に微笑む。
<シーン3:いま/娘の新居>
母:「3時間くらい、食卓の丸テーブルで泣き笑いしてたわね」
父:懐かしそうに、妻が思い出を語る。
母:「結局、家具屋さんへ行ったのは次の日だったのよ」
父:「ああ、覚えてるよ」
母:「そこで、これを」
父:「そうだったな」
母:「この娘は、小さな部屋だからって小さい四角のテーブルを選ぼうとして」
父:「ママがそれをとめた」
母:「実家でも、食卓は優しい丸テーブルなんだもの」
父:娘は幸せそうな顔で、私たちの思い出話を聞いている。
母:「丸いテーブルでないと。
丸という形は、部屋をあったかくしてくれるのよ」
父:あの日と同じ笑顔で、同じ言葉を話す。
母:「テーブルが丸いと、どの位置からでも座れるでしょ」
父:「そうそう。そう言って、2つの椅子も選んだんだっけ」
母:「椅子がひとつなんてダメよ。
お友達がきたときにどうするの。1組あれば、2人はちゃんと座れるでしょ」
父:「でも、2つじゃ足りないよな」
母:「そう言って、あなたがもう1脚、折りたたみの白くて可愛いチェアを選んだのよ」
父:「よかったじゃないか。3つあればこれから私たちが来ても、みんな座れる」
母:「最初から、娘の部屋にくること前提なんだから(笑)」
父:「バレバレだったか(笑)」
妻は娘の方へ向き直って口元をほころばせながら娘に話しかける。
母:「でもまさか、あなたが新居にまで持ってくるとは思わなかったわ」
父:「ママのDNAが受け継がれたんだな」
母:「そうかもね。
でもね、私は次に食卓を買うときも丸テーブルにした方がいいと思うの」
父:「わかるよ」
母:「丸テーブルなら、対面で座っても、横に座っても、距離が近く感じるの」
父:「結婚式も丸テーブルだしな」
母: そう!家族みんなでご飯を食べて、あったかい家庭を作りなさい」
父:「もうちゃんと作れてるじゃないか」
BGM♪インテリアドリーム
母:「あら、そうだったわね」
父:そう言って妻が娘の方へ振り返る。
丸いテーブルの横に置かれたソファに座り、微笑む娘。
その胸には、小さなもうひとりの家族が、優しく抱かれていた。
すやすや眠る小さな命は、丸テーブルの5人目の家族になるだろう。
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