「Anniversary〜電動ベッド/後編」 2024年3月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 彼女(25歳)・・・売り出し中の若手声優。毎日スケジュールに追われ、アニメやゲームのアフレコに追われ、オーディションに追われ、寝る間もなく活動している
  • 彼(25歳)・・・大学卒業後、内定していた就職先を辞退して、2浪してこの春から獣医になる。今はペットクリニックで働いている。誕生日は彼女と同じく3月

Story〜「Anniversary〜電動ベッド/後編」

<シーン1/カフェ>
彼女:「合格おめでとう」
「ありがとう」
彼:彼女は獣医のことを”動物のお医者さん”と言う。
そういえば、昔、そんなアニメかマンガがあったような。

いま売り出し中の若手声優の彼女。
まだレギュラーのアニメや映画出演があるわけじゃないけど僕から見ても、表現のレベルは相当高いし、センスもいい。
3歳の頃から朗読の勉強をはじめていま25歳。
まあ20年以上のキャリアがあるようなもんか。
だからかな、アニメやゲームのアフレコ、PVのナレーション、Vチューバーと休みなく活動している。
今日彼女と会えたのも、2か月ぶりだ。
彼女:「顔を合わせるのって、久しぶりね」
彼:「56日ぶり」
彼女:「なかなか会えなくてごめんね」
彼:「いいことじゃないか。
それだけ君に需要があるっていう意味だから」
彼女:「そうかなあ」
彼:「そうだよ」
彼女:「声優人気がハンパない今のうちに、フル回転させられてるって感じ」
彼:「そんなことないさ。
どんなロジックでも売れていくことはいいことだろ」
彼女:「たまに思うんだよね。
私じゃなくてほかの声優さんでも結果は同じじゃないかって」
彼:「合否の結果は同じでも、
君じゃなければ世に出るものの価値がまったく違う」
彼女:「そう?」
彼:「僕はこっち側の人間だからね。
受け手として感じたままを正直に言ってるだけ」
彼女:「そういうとこ、理系の彼氏でよかったわ」
彼:今はブームのせいで作品も表現者も粗製濫造のイメージだけどあっという間に淘汰されていくと思うよ
彼女:「ありがとう」
彼:いつの間にか、僕はいっぱしのコメンテーター気取りだ。
伴走者のつもりで彼女と会話をするうちに声優業界についても妙に玄人はだしになってしまった。
久しぶりの逢瀬は、彼女がエスプレッソ3杯、僕がアールグレイ4杯。
3時間たっぷりと話し合った。
このあとは、いつものルーティン。
4年前のあの日以来、僕たちのデートコースに組み込まれた場所があるんだ。
<シーン2/インテリアショップ(ねむりデザインLABO)>
彼女:「このお店、もう私たちの定番コースね」
彼:屈託のない笑顔で彼女が、口角を上げる。
ここは、いつものインテリアショップ。
4年前、初詣の帰りにふと立ち寄った家具屋さんだ。
あの頃いつも見ていたのは、まばゆいインテリア雑貨とアート。
まるで『不思議の国』のような世界に夢中だった。
でも、最近は・・・
彼女:「やっぱり真っ先にベッドコーナーに行くのね」
彼:「ベッドコーナーじゃなくて、ねむりデザインLABOだよ」
彼女:「ラボ、だなんて、あなたの口から出るとすっごい説得力」
彼:「本当にラボ、研究所じゃないか。
獣医の国家試験に合格するまで、僕はずうっと睡眠障害だったのに」
彼女:「私だって何年も不眠症に悩まされていたけど」
彼:「スリープアドバイザーに相談してよかっただろ」
彼女:「そうね。私も知らなかったわ。
睡眠障害が、枕やマットレスで改善されるなんて」
彼:「まあ、それは厚労省のサイトにも明記されているけどね」
彼女:「わあ、また理系っぽい話し方」
彼:「すぐそうやってバカにする」
彼女:「してないわよ。
だって、睡眠の質が人生の質をあげるんでしょ」
彼:「もちろんさ。人生の1/3は睡眠時間だしね」
彼女:「お互いに、ステップアップしていかなきゃ」
彼:「そうだな。
ちゃんと快眠できれば、獣医としての仕事の質も上がる」
彼女:「私もベストコンディションでスタジオに入れるもの」
彼:「早く次のステップへ行きたいな」
彼女:「それは仕事?私たちの関係?」
彼:「どっちも。だって両方大切だろ」
彼女:「うん。でも・・・」
彼:

「なに?」

彼女:「ううん、なんでもない」
彼:次のステップ。
彼女が考えるステップは何を表す言葉だろう。
果たして僕と彼女の思いに齟齬はないだろうか。
あ、また、”齟齬”だなんて言葉を使ったら彼女に注意されるかな。
<シーン3/街中を歩く2人>
彼女:「ねえ、今日はアパートでご飯食べない?」
彼:「え?」
彼女:

「なんか、外食もう飽きちゃった」

彼:「でも、食べるものあったっけ」
彼女:「適当にデリバリーすればいいじゃない」
彼:「あ、そうか、いいよ」
彼:彼女の横顔が僕から視線をはずす。
少しだけ口元が緩んだように見えたのは気のせいかな。

彼女とはお互いのアパートを行き来する関係。
今日は僕がオペで遅くなったからクリニックの近くで彼女が待っていてくれた。
こうやって何気ない会話をしながら、一緒に歩いて家に帰るってのもいいもんだな。

やがて、アパートが見えてきた。
彼女は・・・
なんだか、笑いを殺したポーカーフェイスみたいに見えるけど。

僕たちは、腕を組んでエントランスからエレベータに乗る。
13階で降りれば、部屋はすぐ目の前だ。
彼:「あ?灯りがつけっぱなしだ
朝、そのままで出ちゃったのかなあ」
慌ててロックをはずし、部屋の中へ。
彼:「え?」
彼:食卓の上に、豪華な料理が並んでいる。
料理の横には2つのシャンパングラス。
驚いて振り返ると・・・
彼女:「サプラ〜イズ!!」
彼:彼女がシャンパンのコルクを抜く。
片手に瓶を持ち、満面の笑みで
彼女:「ハッピーバースデー!!」
彼:「あ・・・」
彼女:「4年前のリベンジよ」
彼:「そうか・・・
忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。
今日は・・・」
彼女:「自分の誕生日も忘れてたでしょ」
彼:「うん・・・
彼女:「もう大変だったんだから。
あなたが帰る時間を逆算して一生懸命料理を作ったのよ」
彼:「ありがとう・・・」
彼女:「ふふん、お礼はまだ早いと思うけどなあ」
彼:「え・・・」
彼女:「寝室へ入ってみて」
彼:慌てて寝室の扉をあけると、
「あ!」
彼女:「もうひとつサプラ〜イズ!!」
BGM♪インテリアドリーム
彼女:扉の向こうには、モダンダンス部の仲間たちが勢揃いしていた。
全員:「ハッピーバースデー!!」
彼女:「あ・・・」
BGM♪インテリアドリーム
彼:僕のほしかった電動ベッドがそこにあった。
彼女:「これが、私からのバースデープレゼント」
彼:「そんな・・・こんな高いもの」
彼女:「なに言ってるの。
先月のお給料が入ったばかりだし。
いまの電動ベッドは私のギャラでも十分買えるわよ」
彼:「嬉しくて言葉が出ないよ・・」
彼女:「スリープアドバイザーに相談してセミダブルにしたの。
リクライニングソファのように2人寝そべってアニメ見られるわよ」
彼:「もうすぐ君が主演するアニメを見られそうだね」
彼女:「だといいけど」
彼:「来週の君の誕生日、サプライズしようと思ってたのに」
彼女:「え、言わないでよ!ネタバレはなし」
彼:「了解」
彼女:「さ、料理、冷めちゃう前に、食べましょ」
彼:「ああ」
彼:僕は、ずっと胸ポケットにしまってある小さな箱に手をあてた。
ネタバレなしなら仕方がない。
来週の彼女の誕生日に、ひざまづいてサプライズしよう。
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