「あの日の入学式/学習デスク」後編 2023年3月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 妹(5歳/18歳)・・・小学校入学前/東京の大学へ入学が決まり名古屋を離れることに
  • 兄(6歳/19歳)・・・小学校入学直前/東京の大学で先に一人暮らしをしている
妹:「おにいちゃ〜ん!」
兄:新入生を迎える在校生の最前列に並ぶ僕を見つけて、妹は大きく手を振った。
左右に並んだ家族席では、父と母がいまかいまかと待っている。
いつものように大きな声で応援する父と、
あ、おかあさん、また泣いてる・・・

母の涙に気づいた父は、笑いながらハンカチを手渡す。
そう、母は1か月前の卒園式でも、3年前の入園式でも大粒の涙を流していた。
僕も妹も、そんな母が大好きだった。
無口で口数は決して多くないけれど、誰よりも僕たちを愛してくれる母。
そんな母の代わりにいつも僕たちを励まし、守ってくれたのは、男気のある父だ。
僕たち兄妹は、両親の大きな愛に包まれて育っていった。

2年前、僕たち家族4人でインテリアショップへ出かけたとき、

Story〜「あの日の入学式/学習デスク/妹-5歳:兄-6歳」

兄:「お前が好きな学習デスク、あるといいな」
妹:「うん!あ、でも今日は、お兄ちゃんのデスク選ぶんでしょ」
兄:「いや、オレはゲームしてるから」
妹:「え、いいの?」
兄:「気に入るの見つかるといいな」
妹:「やったぁ!」
兄:僕たちの会話を聞きながら、父は優しく微笑む。
父の横に立つ母はもう目が潤んでいる。
妹:「ママ、泣いてるの?悲しいの?」
兄:「ううん、そうじゃないんだよ。
ママはね、嬉しいと涙がとまらなくなるんだって」
妹:「ふうん」
兄:「さあ、このいっぱいの学習デスクの中から、
お前のデスクを早く見つけ出してこい」
妹:「わかった!」
兄:父と母に手をひかれた妹は、じっくりと、本当にじっくり、
ひとつずつ手で触れながら学習デスクの森を歩いていく。
そのなかのひとつ、白い色の学習デスクに触れた瞬間、妹は目を輝かせて叫んだ。
妹:「私、これがいい!」
兄:それは、大好きな生クリームのように真っ白な木製のデスク。
触ると、柔らかくてあったかい、木の優しさが伝わってきた。
 父は笑顔でうなづき、母は目を潤ませて、妹の頭を撫でている。
妹:「あ、でも、こっちも・・・」
兄:最初に見つけたのは左側に置いてある、エッジに茜色のラインが入ったデスク。
その右側には藍色のラインが煌めくデスクも置いてあった。
妹:「どうしよう、決められない」
兄:「じゃあオレが、もう片方のにするよ」
妹:「え〜」
兄:結局、父は学習デスクを2台購入した。
妹が選んだのは茜色のラインが入ったデスク。
そして、僕が藍色のラインの方になった。
兄:「お〜い、もう夕ご飯の時間だぞ」
妹:「もうちょっと・・・」
兄:「しょうがないなあ、また学習デスクに座ってるのか」
妹:「だって、楽しいんだもん」
兄:「あーあー、お菓子こぼしちゃって・・・
あー、アニメのシールまで」
妹:「だって・・・」
兄:「来年小学校へ入るときは汚れちゃってるんじゃないか」
妹:「そんときはキレイにするからいい」
兄:学習デスクは、妹にとって、自分だけの特別な場所になっていった。
妹:「行ってきます!」
兄:笑顔いっぱいの妹が、入学式に出かけていく。
出かける前、部屋の扉越しに声をかけたのは・・・
いつも座っていた自分の学習デスク。
そう、入学前の1年間、家にいるときは毎日学習デスクに座り、
デスクに話しかけながら過ごしてきたのだから。
なんだか、学習デスクも、
行ってらっしゃい、
と返事をしたように見えた。
兄:ぶかぶかの制服に身を包んだ妹が、会場のステージに向かって歩きながら
父と母に大きく手を振る。
その姿を見て、また母が涙ぐむ。
その横で、父が母を見て笑う。
その2人を見て、妹が手を振りながら笑う。
僕は、妹と父母を交互に見ながら、より幸せな気分になっていった。

Story〜「あの日の入学式/学習デスク/妹-18歳:兄-19歳」

妹:「じゃあ、もう行くね・・・」
兄:あれから12年。
妹は念願の東京の大学に受かり、家を離れることになった。
一人暮らしの小さな部屋に学習デスクは連れていけない。
最後に家を出るとき、妹は学習デスクにそっと触れた。
そう、まさにあの時、インテリアショップで
初めてこのデスクに出逢った時と同じように。
妹:「いつも寄り添ってくれてありがとう・・・」
兄:使い込んだデスクの表面には、インクの染みとシールを剥がした痕。
それは、デスクが長年連れ添ってきた無二の親友である証だった。
もう一度、デスクの表面を愛おしそうに(やさしく)撫でながら、妹が呟く。
妹:「いままで、本当にありがとう・・・私の、大切な家族」
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