「オーロラの彼方に/電動ベッド『オーロラ』/後編」 2024年10月

ボイスドラマを聴く

ボイスドラマの内容

登場人物

  • 女性(26歳)・・・大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている
  • 男性(28歳)・・・女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを期待してポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる

Story〜「オーロラの彼方に/電動ベッド『オーロラ』/後編」

<シーン1/先端科学研究所>
SE(ラボの環境音)
女性:「スーパーカミオカンデからのオファー!?私が?」
男性:彼女が通常より1オクターブ高い音階で驚く。
まあ、無理もない。
大学が運営する先端科学研究所で天文学を研究して、去年の年末に、オーロラの出現を予測したんだから。
オーロラ姫の面目躍如だ。

それにしても、スーパーカミオカンデとはね。
東京大学宇宙線研究所が運用する世界最大の宇宙素粒子観測装置。
ニュートリノという素粒子を観測する施設からのオファーか。
期待の高さがわかるってもんだな。
女性:「去年のオーロラ出現以来、毎日毎日観測室とデータ解析室の往復を繰り返してるのよ。
睡眠障害だった1年前より、睡眠不足だわ」
男性:そうだった。
オーロラ姫はずうっと睡眠障害で悩んでいたんだ。

彼女の言葉を聞いた僕は、いてもたってもいられなくて
いろんな文献を調べたんだっけ。

あ、いや。
彼女のことが好きだとか、そういう直接的な意味じゃなくて。
なんとなく・・・
あれ?やっぱり、好きなのかな・・・

まいいや。

それで結局、治療もさることながら
ベッドや寝具も重要、と厚労省のガイドブックにあったから。

足を向けたのが、インテリアショップ。
そこで真っ先に目についたのが、電動リクライニングベッドだった。
高機能なツーモーターでありながらリーズナブル。

これなら研究員の僕でも手が出るかな・・

なんて思ってたらそのネーミングを見て驚いた。

電動リクライニングベッド”オーロラ”。

まるで、僕の心を突き動かすように
目が離せなくなった。

そのとき、同じベッドを見つめていたのが、なんとオーロラ姫。
偶然はドラマを生む。

なんてことはありえないんだな。

そのあと、少しだけ彼女と話し、お茶を飲んで別れた。
彼女と2人っきりの空間で話をしたのは、
あとにも先にもこの日だけ。

僕の思いは、オーロラの光のように、儚く消えていった。
<シーン2/先端科学研究所(実験室)>
SE(ラボの環境音)
女性:「あら?今日は先輩と2人だけ?」
男性:え?
あ、そうか。
今日は休日だったっけ。
最近はみんな、休日は休んでるからなあ。
当たり前か。

待てよ。
オーロラ姫は・・・彼女は・・
全然休んでないんじゃないか。
嫌な予感。
不安が心をよぎる。
女性:「お腹すかない?
なんだか血糖値が下がってきちゃったみたい」
男性:「ああ、もうこんな時間じゃないか。
夢中になって観測してると、時間も忘れちゃうんだな」
女性:「そうよぉ。
相対性理論でいうタイムマシンの原理ね」
男性:なんか違うような気もするけど。
ああ、体の疲れがピークだ。
力を抜くと瞼が閉じていく。
そのとき・・・
SE(人が倒れる音とガラスの割れる音)
男性:「オーロラ姫!?」

大きな音に目を見開くと・・
高性能天体望遠鏡が床に倒れ、
その上にオーロラ姫が横たわっていた。

顔色は失せ、急激な発汗と震え。
これは・・・低血糖症だ。

やがて、痙攣が彼女を襲う。
そのまま意識を失った。

少しためらいながら、僕は彼女を抱き起こす。
そのまま仮眠室のベッドへ。

だが、ほどなく、脈が早くなり、呼吸が荒くなる。
そして・・呼吸音は聞こえなくなった。

まずい。

こんなときは・・・

わかっている。大学時代、ライフセーバーをやっていた。
戸惑っているときではない。
オーロラ姫の首を軽く後ろに傾けて、下あごを持ち上げる。
気道を確保してから、唇を合わせて、息を吹き込んだ。

その間に、胸が落ちるのを確認する。
人工呼吸を2回するごとに、呼吸と脈拍をチェック。
僕はオーロラ姫の呼吸が回復するまで人工呼吸を続けた。
<シーン3/病院のベッド>
SE(心電図の音)
女性:「起きて・・・ねえ、起きて」
男性:え?
ここは・・・病院?
女性:「あなたまで倒れないでよ」
男性:思い出した。
僕は、オーロラ姫に人工呼吸で救命措置をしたあと、
救急車を呼んで病院に運んでもらったんだ。

そうか、付き添っているうちに、僕も眠っちゃったんだな。
女性:「ERドクターに言われたわ。
呼吸が戻ったのは、適切な救命措置のおかげだって」
男性:救命措置・・・
女性:「先輩が迅速に人工呼吸と心配蘇生をしてくれたから
後遺症もなくこうして生きていられるのね」
男性:「それは・・・たまたま僕が以前ライフセーバーだったから」
女性:「ううん。
オーロラ姫を死の眠りから目覚めさせてくれたのは王子様のキスでしょ」
男性:「え・・・」
BGM「インテリアドリーム」
女性:「ありがとう」
男性:「そんな・・お礼なんて」
女性:「今度は、起きているときにしてね」
男性:「ええっ?」
男性:そう言ったあと、彼女はいたずらっぽく笑う。
女性:「私、もう少し自分の体を大切にするわ」
男性:「うん。それがいい」
女性:「ああ、病院の硬いベッドじゃなくて、
おうちのリクライニングベッドで眠りたい」
男性:「ああ、あれ」
女性:「そう・・」
男性:「オーロラ!」
女性:「先輩も、ベッド変えたら?」
男性:「うん、考えてたんだ」
女性:「先輩の給料なら、もっと上位機種にも手が届くでしょ」
男性:「いやいや。僕も自分の身の丈に合わせてオーロラさ」
女性:「へえ〜、そうなんだ」
男性:「僕は所詮ポスドクだし、研究員の給料なんて君もよく知ってるだろ」
女性:「じゃあ、2人合算すれば、アップグレードできるかしら」
男性:「えっ?」
 
言ったあと、オーロラ姫は下を向いてはにかんでいる。
ひょっとして、僕は王子様になれるのかな。
顔色が戻ってきた彼女の頬は薄紅色に輝いていた。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!