「デイゴの花/ガマの中の家具職人/後編」 2024年8月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 少年時代の祖父(5歳)・・・父とはぐれたガマで学生と知り合い助けられる
  • 学生(14歳)・・・家具職人を目指して修行していた沖縄の学生

Story〜「デイゴの花/ガマの中の家具職人/後編」

<シーン1/1945年/那覇にて>
SE(激しい戦火の音)
少年:「このガマに、入れてください」
「逃げているときに父とはぐれてしまいました」
「いまは僕1人です」
「もしお邪魔ならすぐに出ていきます」
「わかりました」
「おじゃましました」
学生:「ちょっと待って」
少年:あきらめて引き返そうとしたとき、声をかけられた。
ガマの奥から現れた学生服のお兄さん。
学生:「きみ、どっから来たの?」
少年:「宜野湾です」
学生:「宜野湾から歩いてきたの?」
少年:「はい」
学生:「さあ、こっちへ来て。
僕のとなり、ちょっとつめれば入れるから」
少年:ガマの中の大人はすごく嫌な顔をした。
仕方ない。

だって今はみんな生きるのに必死だもん。

ボクだって、弾に当たらないようにしながらここまで一生懸命走ってきた。

オトゥーは途中の村でボクを先に行かせていなくなった。
絶対に後ろを振り返るな、と言われたから、言うことをきいて、前だけを見てここまできた。

だけど、この辺鉄砲の音がいっぱいしてるから怖くなって、ガマへ逃げたんだ。

声をかけてくれたのは、お兄さんだけ。

右手に包帯巻いてる。怪我してるのかなあ。
学生:「もう大丈夫だよ」
少年:「ありがとうございます」
学生:「はい、これ食べて。周りの人にはナイショだよ」
少年:お兄さんは、小さくちぎった魚の干物をボクに手渡した。
これは、ハマダイかなあ。
小さすぎて、なんの魚だかもうわかんない。
僕が干物を口に入れたとき、お兄さんのお腹がぐぅと鳴った。

え?

お兄さん、これ、お兄さんの晩御飯じゃないの?

お兄さんは人差し指を口にあてて、しいっというジェスチャーをした。

笑いながら、僕の耳に口を近づけて囁く。
学生:「兵隊がいなくてよかったね」
少年:「え?どうして?」
学生:「あいつらがいたら、子供なんて絶対追い出される」
少年:「兵隊さんはウチナンチュを守ってくれるんじゃないの?」

僕も小さな声で、お兄さんの耳にささやく。
学生:「守ってくれたら、沖縄がこんな風になってると思うかい」
少年:「え」

その先、言葉が続かない僕に、お兄さんは自分のことを話してくれた。
お兄さんは家具職人になりたいのだという。
学生:「沖縄の家具ってのはね、美しくて、優しくて、
涼しくて、あったかいんだよ」
少年:涼しくて、あったかい?へんなの。
学生:「素材は琉球松とかイヌマキ。耐久性があって湿気にも強い。
イヌマキは首里城にも使われてるんだぞ。
最高の素材を使って最高の座卓や箪笥を作りたいなあ。
紅型(びんがた)で染めた風呂敷を座卓にかけるのもいいな。
シーサーをおく棚は格子にして風通しをよくしよう」
少年:周りの大人たちは、おでこにシワを寄せて怖い顔をしてるのにお兄さんはなんだか楽しそうだ。
学生:「あーあ。なりたかったなあ。家具職人」
少年:え?なるんじゃないの。
さっき、戦争が終わったら家具職人になる、って言ってたよ。
学生:「家具職人になりたかったけど・・・
このガマに入る前はね、戦争の道具を作ってたんだ。
ほら、家具職人ってみんな手先が起用だろ。
だから、仕事をやめて弾薬箱とか作らされるんだよ。

家具は、人を幸せにするもの。
家族の絆をつむぐもの。

なのに、僕たちは人を殺す道具を作っていたんだ」
少年:さっきまで優しい顔をしていたお兄さんがだんだん険しい形相になってくる。

お兄さん、やめて。そんな話。
小さい声でも周りの大人に聞こえちゃうよ。
学生:「ああ、そうだった。ごめんごめん。
もっと楽しい話をしよう」
少年:「うん」
学生:「君はここを出たら、家具職人にならないか」
少年:「ボクが?」
学生:「人を殺す道具じゃなくて、人を幸せにする家具を作るんだ」
少年:「お兄さんはもう家具を作りたくないの?」
学生:「そりゃ作りたいさ。ここを生きて出られたら」
少年:お兄さんの話はそこで終わった。
それからボクたちは何日ガマにいただろう?

食べるものもだんだんなくなって、入口近くにあった草の根っこも全部食べ尽くしちゃった。

お腹が減ったなあ。おにぎり腹一杯食べたいなあ。

そんなとき、お兄さんは落ちてる枝でいろんなものを作ってくれた。

それは木でできたおもちゃ。
カエルとか魚とか犬とかニワトリとか。
すごいな、お兄さん。

今日はちょっと長い木の枝を持ってきて周りの小枝を削って一本の棒にした。

なんだろう?

不思議な顔して眺めていると、お兄さんは自分の下着を破いた。
ちょっと黒ずんだ白いシャツ。

え?そんなことしたら着れなくなっちゃうよ。

白い部分を木の棒に巻きつけて旗みたいにした。
学生:「このあと、これを大きく振って外へ出るんだよ」
少年:「どうして?弾に当たっちゃうよ」
学生:「大丈夫。もう外で銃弾の音はしていない」
少年:「そうなの?」
学生:「この前、ガマにビラが投げ込まれただろ」
少年:「ビラってなに?」
学生:「文字を書いた紙だよ」
少年:「ふうん」
学生:「そこにはね、こう書かれていたんだ。
隠れているみなさん、戦争はもう終わりました。
出てきてください。
もう少ししたらガマに爆弾を投げ入れますから早く出てきてください。
って」
少年:「うそだ」
学生:「うそじゃないよ。
今までずっとうそをついていたのは、僕たちが信じていた方さ」
少年:お兄さんはそう言って僕をガマの外に追い出した。
学生:「いいかい。どんなに大きい音がしても、絶対に振り返っちゃいけないよ」
少年:オトゥーと同じことを言う。
ボクはボロボロの白い旗を振って外へでた。
外で待ち構えていたアメリカ兵は
すぐにボクを抱き抱えて走り出す。
背中からものすごく大きな音と強い風がやってきた。
BGM「海唄」
祖父:こうして私は家具職人になった。
美しくて、優しくて、涼しくて、あったかい家具を作り続ける。

人を幸せにする家具。
家族の絆をつなぐ家具。

棚や箪笥の上には、必ずシーサーを置く。
大切な人をいつまでもいつまでも守ってほしい。

愛する孫娘のことも。

”いちゃりばちょーでー”

みんなに守られて、幸せになるんだよ。
これから、どんな時代がやってきても忘れてはいけない。

”ぬちどぉたから”
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