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ボイスドラマの内容
登場人物
- 女性(5歳/8歳/25歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる
- 男性(45歳/48歳/65歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します
Story〜「花火/食卓の愛/後編」
<シーン1/娘5歳/花火大会にて> | |
SE | (遠くに聞こえる花火の音) |
娘: | 「パパ、早く早く!」 |
父: | 「そんなに急がなくても、花火はまだおわらないよ」 |
娘: | 「でも、少しでも近くで見たいんだもん」 |
父: | 「ようし、じゃあ堤防までスキップだ!」 |
BGM | (イメージ)/ルージュの伝言(荒井由実) |
娘: | 父に手をひかれた5歳の夏。 いつも家ではつま先歩きをしているけど、今夜は特別。 目の前で花火を見たいからついつい早足になる。 |
SE | (花火の音/より近く) |
娘: | 「わあ〜」 |
父: | 「きれいだねえ」 |
娘: | 「うん、おっきなまんまる」 |
父: | 「折りたたみの椅子、持ってきてよかったな」 |
娘: | 「もっと下の方へいきたい」 |
父: | 「土手の方かい?」 |
娘: | 「うん」 |
父: | 「いいけど、椅子は安定しないから、草の上に座ろうか」 |
娘: | 「やったあ」 |
SE | (土手を降りていく音) |
娘: | 「よいしょっと」 |
父: | 「すごい迫力だな。火の粉が降ってきそうだね」 |
娘: | 「パパ、おひざに座ってもいい?」 |
父: | 「ああ、もちろんさ」 |
娘: | 私は父の膝の上に腰をおろし、胸にもたれながら 大迫力の打上花火を楽しんだ。 クライマックスはスターマインと尺玉の競演。 二人とも夜空を見続けて首が痛くなってしまった。ふふふ。 |
<シーン2/娘8歳/バレエ教室にて/花火大会の日> | |
SE | (遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン) |
娘: | それから3年後。8歳の夏。 窓の向こうには、大輪の花火が夜空に広がっている。 花火大会の日、私はバレエ教室でレッスンを受けていた。 バレエのコンクールは夏におこなわれることが多い。 コンクールに向けたレッスンで毎日のようにバレエ教室へ通っていた。 そもそもクラシックバレエを習いたいと言い出したのは私。 私には、3歳の頃からバレエダンサーになりたいという夢があった。 ママに連れていってもらったバレエの舞台を見て すっかり夢中になっちゃんたんだ。 演目は有名な「白鳥の湖」。 でも私が魅せられたのは、白鳥のオデットではなく、黒鳥。 ライトを浴びる黒鳥オディールの怖いほどの美しさ。 回り続ける漆黒の煌めきから目が離せなくなった。 このときから、私の夢はいつかファーストソリストになって 黒鳥を舞うこと。 花火大会も夏祭りも大好きだったけど、それよりも夢を優先した。 若干8歳の女の子が。 ちょうど花火大会が終わる頃。 私は、バレエ教室の先生から声をかけられた。 ”パリのオペラ座バレエ学校を受けてみない?” パリ・オペラ座バレエ学校。 世界一の水準と言われるパリ・オペラ座バレエ団に入る 多くのダンサーはここへ通う。 そうか。確か8歳から入学は可能だ。 しかも国籍に関係なく、優れたダンサーであれば誰でも応募できる。 もちろんすごい競争率に勝たないといけないけど。 柔軟性、筋力、スタミナも含めた身体的能力が求められる。 ”私の身体能力なら大丈夫” なぜか、先生は太鼓判を押してくれた。 「行きたい」 だけど、だけど、パパやママと離れるのは絶対にいや。 8歳の小さな心は葛藤した。 |
<シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる> | |
SE | (セミの声と風鈴の音) |
娘: | 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」 |
父: | 「なんだい、それ?」 |
娘: | 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」 |
父: | 「へえ」 |
娘: | 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」 |
父: | 「ほう、いいじゃないか」 |
娘: | 「でも、パリって遠くない?」 |
父: | 「パリ!?」 |
娘: | 父は口をあけたまま言葉が続かなかった。 変な顔をして不自然に笑っている。 そりゃそうよね。 いきなり8歳の娘がパリへ行くなんて言ったら。 食卓は家族が集まって今日あったことを話す場所。 私最近、学校のことより、バレエの話の方が多いかも。 食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。 中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。 大きさは大小さまざま。 この5年の間に、夏祭りの屋台からすくってきた私の戦利品だ。 1匹も死ぬことはなく父が大切に育ててくれている。 |
娘: | 「すっごく考えたんだけど、私ね」 |
父: | 「うん」(※つばを飲む) |
娘: | 「いかないよ」 |
父: | 「え?」 |
娘: | 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」 |
父: | 「そ、そうか・・・」 |
娘: | パパ、ごめんね。 今はいかないけど、いつか、私行くと思う。 ママは教室の帰り道で ”一緒に行こう” って言ってくれた。 私はホッとするパパの顔を見ていると 幸せな気持ちになって口元がほころんだ。 |
<シーン4/場面転換/娘12歳/空港にて> | |
SE | (飛行機の離陸音) |
娘: | 結局、その4年後に私はパリへ旅立った。 受かるとは思ってなかったけど パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格しちゃったんだ。 ママはすぐにパリのアパルトマンを借りてくれた。 私は18歳までレッスンしながらキャリアを積む。 パパ、ちゃんとお盆とお正月には帰ってくるから。 ごめんね。ごめんね。 |
<シーン5/娘25歳/東京のバレエ教室にて> | |
SE | (遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン) |
娘: | 25歳の夏。 子供たちにバレエを教えながら、ちらっと窓を見る。 あの日と同じように、ガラス越しの夜空に花火が上がっている。 私は、パリ・オペラ座バレエ学校を18歳で卒業したあと オーディションを受けてパリ・オペラ座バレエ団に入団した。 プルミエ・ダンスールとなり念願の黒鳥を舞ったのは、20歳の夏。 夢を叶えた私は、もう何も思い残すことはなく帰国した。 なのに、地元へは帰らず、東京にいる。 それは、パパのこの言葉があったから。 |
父: | 「オペラ座バレエ団であんな素晴らしい舞台にたったダンサーが こんな田舎にいちゃいけないよ」 |
娘: | 父に背中を押されて、私は東京へ。 有名なバレエ団が運営するバレエ教室で子供たちを教えている。 やがて花火大会が終わった。 地元の花火大会の方がすごかったな・・・ パパ・・・ |
<シーン6/娘25歳/八幡神社の夏祭り> | |
SE | (祭り囃子と雑踏) |
娘: | 来ちゃった。 パパいるかな、と思って直行で夏祭りへ。 そんな都合のいいこと、ないよね。 神社は相変わらずすごい人。 灯篭に灯のともった参道を歩くと・・・ あ、金魚すくい。 その10分後。 私の左手には金魚が1匹入ったビニール袋が揺れていた。 このあと、どうしようかな・・・ いきなり帰ったら、パパもママもびっくりするよね・・・ もう少しお祭り見ていこうかな・・・ そう思った瞬間、私の右手を大きな手が包み込んだ。 |
父: | 「おかえり」 |
娘: | 「パパ!」 |
BGM | 「インテリアドリーム」 |
娘: | そのあとは、もう言葉にならなかった。 父も同じ思いだったに違いない。 かろうじて、しぼりだした言葉は、 |
父: | 「そろそろ帰ろうか」 |
娘: | 「うん」 |
父: | 「今まであったこと、いろいろ話してくれるだろ?」 |
娘: | 「うん」 あの食卓で。 早く家に帰って、食卓に座りたい。 ずうっと開けていてくれている、私の場所へ。 「ただいま」 |