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ボイスドラマの内容
登場人物
- 男性(34歳)・・・グラフィックデザイナー、彼女とは仕事で知り合い一緒に暮らしている
- 女性(36歳)・・・マーケティングディレクター。彼に仕事を発注するマネージャー
Story〜「2人のホームオフィス/前編」
彼女: | 「ねえ、雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)って知ってる?」 |
彼: | キッチンで食材を調理しながら、彼女が呟く。 別に答えを求めているわけではない。 それに、そんな難しい言葉。マーケターの彼女じゃないとわからない。 |
彼女: | 「雷が鳴り響かなくなる季節ってこと。 ほら、夏の間、ゴロゴロ鳴って夕立を連れてきた雷も最近、ならないでしょ」 |
彼: | なるほど。さすが僕のパートナー。 仕事でもプロジェクトマネージャーをこなすだけあって説明もうまいなあ。 |
彼女: | 「同じ言い方でね、楓蔦黄(もみじつたきばむ)って言うのもあるの。 そのままの意味だけど、楓(かえで)や蔦の葉が赤や黄色に色づく季節ってこと。 もうすぐ街路樹も色づいて、街は鮮やかな朱(しゅ)を身に纏うわ」 |
彼: | そういえば彼女、一年のうちで秋が一番好きだって言ってたっけ。 白い季節が来る前の、山吹と真紅のハーモニー。 僕も秋が好きなんだ。 |
彼女: | 「この部屋のインテリアも衣替えしなくちゃ。 あなたの好きな伝統色のアースカラーからウォームカラーへ」 |
彼: | 最初に伝統色が好き、って言ったのは君の方だからね。 オッケー、週末は彼女を誘ってインテリアショップへ行くとしよう。 |
彼女: | 「秋から冬にかけては、霎時施(こさめときどきふる)季節っていうくらいだから 湿気に強いレザーのソファにしましょうか」 |
彼: | そうか、ファブリックのこのソファ、夏の日差しでくたびれちゃったかも。 ちょっと上質なレザーをアウトレットで選ぶとするか。 |
彼女: | 「ああ、それか、脚の長い北欧系の皮張りソファもいいなあ。 湿気対策に効果的なフォルムをしているのよ」 |
彼: | へえー、そうなんだ。 |
彼女: | 「ああ、そうだ、収納家具も引き出し付きの清潔感あるタイプにしましょ。 ポスターとかいろいろ、あなたの書類、意外と多いんだから」 |
彼: | ああ、いつもデスクに出しっぱなしにしていたポスターやチラシ、彼女が片付けてくれてたんだ・・・ |
彼女: | 「TVボードも香りが素敵な無垢の素材がいいわ。 まあ、どうせ観るのは、あなたの好きなSF映画ばかりでしょうけど」 |
彼: | いや、君の好きなラブストーリーだって一緒に見てるじゃないか、3回に1回くらいは・・・ |
彼女: | 「それから・・・フローリングにラグもひかないと」 |
彼: | あれ、ラグは好きじゃないって言ってたじゃないか。 フローリングを裸足で歩く感触がいいんだって・・・ |
彼女: | 「あと、ちょっとした時間にさっと眠れるようにソファーベッドも。 ロータイプにすれば床に落ちても大丈夫ね」 |
彼: | 大丈夫、って誰が? |
彼女: | 「最後にベビーベッド、かな」 |
彼: | え・・・ベビーベッドって、 まさか、え?・・・ 「本当なの!?」 |
彼女: | 「・・・うん。会えるのは夏よ。獅子座かな」 |
彼: | 「そっかぁ、よかった!ホントによかった!」 |
彼女: | 「やだ、なにウルウルしてんの? これからもいいデザイン、いっぱい描いて幸せにしてよ」 |
彼: | 「泣くわけないだろ!」 もちろん、泣いていた・・・ スヤスヤと眠る赤ちゃんと、それを見守るパパとママ。 僕は、頭の中に、そんな微笑ましいイラストを描いていた。 僕たちの前に小さな天使が舞い降りてくるまで、 僕のイラストはソフトで穏やかなタッチに変わるだろう。 |