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ボイスドラマの内容
登場人物
- 男性(34歳)・・・グラフィックデザイナー、彼女とは仕事で知り合い一緒に暮らしている
- 女性(36歳)・・・マーケティングディレクター。彼に仕事を発注するマネージャー
Story〜「2人のホームオフィス/後編」
彼: | 「いいかい、インテリアにはいろんな物語が隠れているんだよ」 |
彼女: | 突然、彼が語り出す。 ひとりごとではなく、腕に抱いた赤ちゃんに向かって語り出す。 半年前この世界にやってきた、小さな小さな命。 やっと授かった、私にとっても、彼にとっても、大切な宝物。 |
彼: | 「たとえば、ほら。この焦香(こがれこう)のデスク」 |
彼女: | 焦香(こがれこう) そんな、難しい日本語。私でもわからないのに・・・。 彼はグラフィックデザイナー。 いま手がけているワークで、日本の伝統色を扱っているらしい。 |
彼: | 「パパとママはここに置いてあるパソコンの中で知り合ったんだよ」 |
彼女: | やめてよ。まるで、出会い系サイトで知り合ったみたいじゃない。 私たちは、あるプロジェクトのリモート会議で知り合った。 参加者全員がオンラインから退出したあとに、なぜか彼と私だけが居残っちゃったんだっけ。 |
彼: | 「あのときのママの顔、可愛かったなあ」 |
彼女: | いまは可愛くないってこと? これ以上言ったら、あなたにおむつ全部取り替えてもらいますからね |
彼: | 「ママがね、突然パパを食事に誘ったんだ」 |
彼女: | いい加減なこと言わないで。 あなたが、いきなりアドレス交換しようって言ってきたんじゃない。 まあ、迷いながらも教えちゃったけど・・・ |
彼: | 「最初にママをエスコートしたのは、ホテルのディナーコース」 |
彼女: | ホテルのカフェのアフタヌーンティースイーツでしょ。 |
彼: | 「パパはグラフィックデザイナー、っていうお仕事だからママのプロジェクトの重要なビジュアルイメージをデ ザインしたんだ」 |
彼女: | ま、それは当たってるか。 |
彼: | 「ママはパパのビジュアルを見て、感動して涙が止まらないって言ってた」 |
彼女: | 言ってない、言ってない。そこまでじゃあ、なかったかな。 |
彼: | 「初めてママがパパのおうちに来たのは君が生まれる半年前だよ」 |
彼女: | いやあね。計算が合わないじゃない。 |
彼: | 「パパのホームオフィスを見たママは感動して、パパをインテリアショップへ連れていったんだ」 |
彼女: | そんな、感動ばっかりしないから。 それに感動したんじゃなくて、あきれたの。 オトコの一人暮らしってろくなもんじゃないって思ってたけど、インテリアデザインの才能なさ過ぎ。 デザイナーなのに、レイアウトやバランスくらい考えてほしかったのよ。 |
彼: | 「ママが選んでくれたのは、この百入茶(ももしおちゃ)のワークチェアと紅消鼠(べにけしねずみ)の 収納用チェスト」 |
彼女: | あら、そうだったかしら。 |
彼: | 「伝統色を使う、というのもママのアイデアなんだ」 |
彼女: | え・・・。そう・・・だ・・・った・・・っけ・・・ |
彼: | 「ママはね、いつだってパパに最高のインスピレーションを与えてくれる女神なんだ」 |
彼女: | もう、私が聞いてるの、わかってて言ってるんでしょ。 |
彼: | 「だから君は女神の子ども、キューピッドだよ」 |
彼女: | ・・・ったく、女神の子どもなら、アポロンとかペルセウスでしょ。 いつだってツメが甘いんだから。 |
彼: | 「誰がツメが甘いって パパはねえ、ママにずうっと恋焦がれてるんだよ。」 |
彼: | 「はい、これ」 |
彼女: | え・・・。えぇ・・・!? こ・・・これって、私がいつもショーウィンドウで見ていたストーンリング・・・? こんなサプライズ、ずるい。 でも、ありがとう・・ |