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ボイスドラマの内容
登場人物
- 彼(38歳)・・・元バレエダンサー。膝を痛めてバレエを断念したが、思いは断ち切れず、ダンススタジオでインストラクターをしている。本職は広告代理店の企画部勤務。彼女のことを意識しているが、年齢差のコンプレックスがあり言い出せない
- 彼女(26歳)・・・前編に登場した息子の姉。芸術大学出身。現在はフリーのイラストレーター。幼い頃からバレエを習い、いまでもダンススタジオに週3で通っている。ダンススタジオで知り合った彼とは月に何回か、食事に行くライトな関係
Story〜「Happy New Interiors!〜家具のイベント/後編」
<シーン1/ダンススタジオ> | |
彼: | 「はい、おつかれ!今日はここまでにしよう」 |
彼女: | 「おつかれさまでした!」 |
彼: | 「お腹すいたな、軽くたべよっか・・」 |
彼女: | ビルの2階にあるダンススタジオ。 通りに面した東側には大きな窓ガラスがはまり、灯りがともる頃には、外からダンサーたちの動きがよく見える。彼の指示で私の定位置はいつも窓側。私は、通りを歩く観客に向かってコンテンポラリーダンスを踊る。 |
<シーン2/レストラン> | |
彼: | 「なんだか、浮かない顔だね」 |
彼女: | え?私、浮かない顔なんてしてた? ちゃんと彼の目を見て笑顔で話をしてたつもりだったのに。 こういうとこ、鋭い人だな。 |
彼: | 「実は僕も、今日会社でちょっとミスしちゃってね。結構ひっぱるタイプだから」 |
彼女: | そう?いつもカラっとしてると思ってたけど。 それに、僕も、って。私が気分下がってること、確信してるのね |
彼: | 「ああ、そういうときは、美味しいお肉をたべて・・・ あ、お肉好きだったよね?」 |
彼女: | 「はい」 |
彼: | 「よし、じゃあ、今日はちょっと贅沢して、飛騨牛のフィレ肉とかいっちゃおうか」 |
彼女: | 「え〜」 |
彼: | 「あれ?食べたくない?」 |
彼女: | 「あ、いえ、食べたいです」 |
彼: | 「オッケー、決まり。すみません、オーダーお願いします! あっと、それから・・・ レッスンのとき以外は敬語っぽい言葉遣いやめてくれる?なんか、くすぐったくて、落ち着かないし」 |
彼女: | 「っと・・・わっかりました〜」 |
彼: | 「うん、それそれそれ」 |
彼女: | タメ口とか、苦手なんだよなあ。 彼は、ちょっぴり強引だけど、なかなか1人で決めきれない性質(たち)の私にはちょうどいいかも。 それにしても、口の中で溶けちゃうくらい、柔らかくてジューシーなお肉。 |
彼: | 「どう?美味しい?」 |
彼女: | 「溶けちゃった」 |
彼: | 「あはは、そりゃ、シャトーブリアンだもの」 |
彼女: | 「ん〜!美味しい!」 |
彼: | 「よかった。 それで、舌鼓を打っているところ悪いんだけど・・・どうしたの?なにかあった?」 |
彼女: | 「えっと・・・私、引っ越ししようと思って」 |
彼: | 「え?引っ越しって?実家暮らしじゃなかったっけ?」 |
彼女: | 「あ、そうなんです・・・そうなんだけど(笑) 弟が社会人になって私の部屋を明け渡しちゃったから」 |
彼: | 「え、じゃあ、いま、どうしてるの?」 |
彼女: | 「1人暮らし前提だから、いまは倉庫代わりに使ってた狭い部屋。 弟は2間続きのスイートになって大喜びしてるわ」 |
彼: | 「そうか、そしたら明日家具見にいこうか?」 |
彼女: | 「家具?」 |
彼: | 「だって、家具ひとつで、お部屋は明るくあったかくなるんだよ」 |
彼女: | 「へえ〜」 |
彼: | 「ただの家具屋じゃなくて、すっごいところへ連れてってあげる」 |
彼女: | 彼はいつだって特別な場所へ私を誘(いざな)ってくれる。 これって、私が特別な存在ってこと? ううん、考えすぎだよね・・・ |
<シーン3/イベント会場(インテリアビッグバザール)> | |
彼女: | 「すご〜い!」 |
彼: | 「だろう?」 |
彼女: | 「インテリアのテーマパークみたい!」 |
彼: | 「そこまでじゃない(笑)」 |
彼女: | いやいや。十分にそこまでだし。 広大なスペースの大ホールにゆったりと並べられた家具たち。 ベッド、ソファ、食卓、デスク、雑貨・・・ いったい何台、何本、何点、展示されているんだろう。 ムートンの体感コーナーまであるし・・・ |
彼: | 「寝転がってみたら?」 |
彼女: | 「いいのかなあ」 |
彼: | 「もちろん」 |
彼女: | 店員より先に私を促す彼。 ベッドに敷かれたムートンのうえ、大の字になって寝そべる。 |
彼: | 「気持ち良さそうだなあ」 |
彼女: | ホントに気持ちいい。このまま眠っちゃいそう。 私の楽しそうな表情を見て、彼の口角がさらに上がる。 |
彼: | 「電動ベッドにも寝てごらん」 |
彼女: | 「電動ベッド?私今年25歳だよ」 |
彼: | 「いやいやいや、いま電動ベッドは若い人に人気なんだよ」 |
彼女: | 「ホント?」 |
彼: | 「まあ、だまされたと思って」 |
彼女: | 「わかった・・・よいしょっと」 |
彼: | 「よいしょっと??(笑)スマホにアプリを入れて」 |
彼女: | 「アプリ?」 |
彼: | 「スマホで操作するんだ」 |
彼女: | 「すご」 |
アプリで時間設定すれば、朝ベッドが起き上がって私を起こしてくれるんだって。 しかも寝ているときイビキをかいたら、ベッドが感知して体を少し起こす? 気道を広げて快適な睡眠へ誘う? 寝る前はリクライニングさせたベッドで、読書したり、ゲームしたり、アニメを見たり、って・・・ ああ、怠惰な私になってしまう〜 | |
彼: | 「健康にしてくれるんだよ」 |
彼女: | 確かに。 私、朝起きるとき、足の浮腫(むくみ)とか結構ひどいからなあ。 ベッドのコーナーには睡眠アドバイザーもいて、そんな相談にものってもらった。 |
彼: | 「小さなワンルームだったら、この電動ベッドがあればソファいらないよね」 |
彼女: | あ、そうか。そうやって考えたら、コスパも高いかも。 それに、向こうには・・・羽毛布団のオーダーメイド?体型や好みに合わせて、この場で羽毛布団を作ってくれるんだ。 すごすぎる・・・ |
彼: | 「楽しい?」 |
彼女: | 「うん。一日中見てまわりたい」 |
彼: | 「じゃあ、そうしよう」 |
彼女: | 「え、いいの?」 |
彼: | 「大丈夫大丈夫。ゆっくり見てまわれば、どうせ一日かかるよ」 |
彼女: | 「やった。 ねえ、あの一帯みて。75%オフだって。ここで全部家具決めちゃおうかな」 |
彼: | 「いいんじゃない」 |
彼女: | 「じゃあ、次は食卓みたい」 |
彼: | 「了解」 |
彼女: | あれ? 私、なんかタメ口っぽい。 普段の私なら考えられないのに。 彼が作り出す、異空間に召喚されてしまったみたい。 |
彼: | 「君の笑顔を見ているとね、本当に幸せな気持ちになれるんだよ」 |
彼女: | 「え」 |
BGM | ♪インテリアドリーム |
彼: | 「この時間が永遠に続けばいいのに、って」 |
彼女: | 「あ」 |
彼: | 「あ〜、いやいやいや。冗談。冗談。忘れて」 |
彼女: | 忘れられるわけがない。 私も、幸せ。 愛とか恋とか、そういうのじゃなくても・・・。 会場いっぱいの家具に囲まれて、なんだか、現実のその先にある、不確かな未来が見えたような・・・気がした。 |