ボイスドラマを聴く
ボイスドラマの内容
登場人物
- 主人公(24歳)・・・市内で1人暮らしのOL/実家は遠方なので両親とはなかなか会えずにいる
- 主人公の父(51歳)・・・地元の建設会社を経営。妻とは半分かけおちで結ばれた
- 主人公の母(53歳)・・・夫の仕事を手伝いながら民謡も教える唄者
娘: | 「ただいま」 誰もいない部屋に私は声をかける。 1DKの小さな空間。 食卓に置かれた小さな灯りが、仕事で疲れた私の顔を優しく照らす。 そう、あれは6年前。 この町に1人で暮らすことになる私に、父が選んでくれたランプ。 父は、末っ子の私のことが心配でたまらないのに、 そんな思いを気取られないよう必死で隠しながら、 |
父: | 「灯りは玄関から見えるところに置きなさい。 灯火というのはね、ランプの中で紡ぐ、幸せの光なんだよ。 この部屋にもいっぱい幸せが訪れるように・・・」 |
娘: | 私は潤んだ瞳を父に見られないよう、顔を背けて、 キッチンの棚にランプを置き、灯りをともした。 |
父: | 「本当になんにもない部屋だな。 いろいろ家具を選びにいかないと・・・」 |
娘: | 「この部屋じゃ、そんなにたくさん入んないよ」 |
父: | 「そうか・・・あ、でも、ほら。 ここには肝心なものがないじゃないか」 |
娘: | 「え・・・」 |
父: | 「食卓・・・だよ」 |
娘: | 「食卓・・・」 |
父: | 「部屋にどうして食卓が必要か、わかるかい?」 |
娘: | 「ごはん、食べるためでしょ」 |
父: | 「それも、そうだけど、食卓というのは、家族の絆なんだよ」 |
娘: | 「家族の絆・・・」 |
父: | 「ああ、たとえどんなに離れていたって、食卓があれば、家族の温もりが消えることはない。 いつだって、お父さんやお母さんがここにいるから」 |
娘: | 「お父さん・・・」 |
父: | 「い、いや、お、お父さんは別に大丈夫だから。 食卓でちゃんと栄養価の高いものを食べて、たまには寂しがりやのお母さんに手紙でも書いてあげなさい」 |
娘: | 手紙って・・・。普通にメールでしょ。 でも、そう言った父の瞳に映る私の顔は少しゆがんで見えた。 玉響(たまゆら)の思い出・・・。 そのあと父と行ったインテリアスタジオ。 あんなに、愛しくて、切ない家具選びはきっとこれからももうないだろう。 |
娘: | あれから6年。 私の生活は、オフショルダーのシャツとデニムパンツからコンサバスーツに。 部屋のインテリアも新しくなった。 でも、部屋の中には、あの食卓とランプが健在だ。 どんなに疲れて帰ってきても、私はキッチンで食事を作り、食卓で食べる。 ランプの灯りは、父の温もりのように私を優しく包む。 眠くて、翌日早くて、時間がなくて、カップラーメンで済ますときでも私は、食卓で、食べる。 そこには家族がいるから。家族の愛を感じるから。 私の生活を彩り、私の人生を紡ぐインテリア。 これからも、私はきっと、この食卓の温もりに抱(いだ)かれ、ランプの灯りに照らされて生きていく。 いつか私に、もっと大きな幸せが訪れても。 私は決して1人じゃない。 「いただきます、お父さん」 「ごちそうさま、お母さん」 |