「家族の食卓」前編 2022年8月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 主人公(24歳)・・・市内で1人暮らしのOL/実家は遠方なので両親とはなかなか会えずにいる
  • 主人公の父(51歳)・・・地元の建設会社を経営。妻とは半分かけおちで結ばれた
  • 主人公の母(53歳)・・・夫の仕事を手伝いながら民謡も教える唄者
娘:「ただいま」

誰もいない部屋に私は声をかける。
1DKの小さな空間。
食卓に置かれた小さな灯りが、仕事で疲れた私の顔を優しく照らす。

そう、あれは6年前。
この町に1人で暮らすことになる私に、父が選んでくれたランプ。
父は、末っ子の私のことが心配でたまらないのに、
そんな思いを気取られないよう必死で隠しながら、
父:「灯りは玄関から見えるところに置きなさい。
灯火というのはね、ランプの中で紡ぐ、幸せの光なんだよ。
この部屋にもいっぱい幸せが訪れるように・・・」
娘:私は潤んだ瞳を父に見られないよう、顔を背けて、
キッチンの棚にランプを置き、灯りをともした。
父:「本当になんにもない部屋だな。
いろいろ家具を選びにいかないと・・・」
娘:「この部屋じゃ、そんなにたくさん入んないよ」
父:「そうか・・・あ、でも、ほら。
ここには肝心なものがないじゃないか」
娘:「え・・・」
父:「食卓・・・だよ」
娘:「食卓・・・」
父:「部屋にどうして食卓が必要か、わかるかい?」
娘:「ごはん、食べるためでしょ」
父:「それも、そうだけど、食卓というのは、家族の絆なんだよ」
娘:「家族の絆・・・」
父:「ああ、たとえどんなに離れていたって、食卓があれば、家族の温もりが消えることはない。
いつだって、お父さんやお母さんがここにいるから」
娘:「お父さん・・・」
父:「い、いや、お、お父さんは別に大丈夫だから。
食卓でちゃんと栄養価の高いものを食べて、たまには寂しがりやのお母さんに手紙でも書いてあげなさい」
娘:手紙って・・・。普通にメールでしょ。
でも、そう言った父の瞳に映る私の顔は少しゆがんで見えた。
玉響(たまゆら)の思い出・・・。
そのあと父と行ったインテリアスタジオ。
あんなに、愛しくて、切ない家具選びはきっとこれからももうないだろう。
娘:あれから6年。
私の生活は、オフショルダーのシャツとデニムパンツからコンサバスーツに。
部屋のインテリアも新しくなった。
でも、部屋の中には、あの食卓とランプが健在だ。
どんなに疲れて帰ってきても、私はキッチンで食事を作り、食卓で食べる。
ランプの灯りは、父の温もりのように私を優しく包む。
眠くて、翌日早くて、時間がなくて、カップラーメンで済ますときでも私は、食卓で、食べる。
そこには家族がいるから。家族の愛を感じるから。
私の生活を彩り、私の人生を紡ぐインテリア。
これからも、私はきっと、この食卓の温もりに抱(いだ)かれ、ランプの灯りに照らされて生きていく。
いつか私に、もっと大きな幸せが訪れても。
私は決して1人じゃない。

「いただきます、お父さん」
「ごちそうさま、お母さん」
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