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ボイスドラマの内容
登場人物
- 主人公(24歳)・・・市内で1人暮らしのOL/実家は遠方なので両親とはなかなか会えずにいる
- 主人公の父(51歳)・・・地元の建設会社を経営。妻とは半分かけおちで結ばれた
- 主人公の母(53歳)・・・夫の仕事を手伝いながら民謡も教える唄者
妻: | 「あら、手紙。届いてたのね」 |
夫: | 娘から届いた手紙を、興味なさそうな顔をして手にとり、妻が台所へ立った。 それはいつものこと。 涙もろい性格の妻だから、きっと目を潤ませて文字を追っているに違いない。 じっと佇む妻の後ろ姿を見ながら、食卓に腰掛けて、私は6年前のあの日を思い出していた。 |
夫: | 「なあ、本当に見送りに行かないのか?」 |
妻: | 「ええ。だって、私たち2人でいっちゃ二対一で可哀想じゃない」 |
夫: | 「なんだそれ、喧嘩しにくんじゃないんだぞ」 |
妻: | 「あなたが1人で行って都会の厳しさをちゃんと伝えてきてくださいな」 |
夫: | 「そうか・・・」 |
妻: | 「いま私、あの娘の顔を見たら、行ってらっしゃいがうまく言えないもの」 |
夫: | 娘が地元を離れて旅立つ日。 いつかはそのときがくるってわかっていたものの、いざその日が来ると、どうにも逃げ出したくなるのが父親の弱さなのか。 心細い思いで留守を守る妻を横目に、勇気を出して娘を空港へ送った。 ところが・・・ |
妻: | 「え!?そのままついてっちゃったの!?」 |
夫: | 「そうなんだ、部屋は決めてあるのに、家具はなんにもないって言うもんだから」 |
妻: | 「やだ、家具はいらないからって言ってたのよ、あの娘」 |
夫: | 「それが、1DKの部屋に収納はなんにもないそうなんだ」 |
妻: | 「あなたの会社で、作ってあげればよかったのに」 |
夫: | 「そんなことはできないよ」 |
妻: | 「そうねえ、じゃあせっかくだから、ゆっくりしてらっしゃいな。 あの娘には、大学でハメはずさないように、って言っといてね。 一応、箱入り娘なんだから(笑)」 |
夫: | 朝の切ない表情から少しだけ明るくなった声振(こわぶり)に安心して、私は娘と家具屋に向かった。 インテリアスタジオ・・・? あゝ、こういう言い方もあるんだな。 明るく広い店内にディスプレイされた、ダイニング、リビング、ベッドルーム・・・ 娘と2人、適度な距離をとって家具を選んでいく。 そういえば、25年前妻と一緒になるときは、あわてて家具を揃えたっけ。 |
妻: | 「・・・あなた」 |
夫: | 「え・・・あ、ああ、すまない。少しぼうっとして・・・」 |
妻: | 「あの娘の手紙、読んだの?」 |
夫: | 「あ、いや、あとから読むから」 |
妻: | 「なにを考えていらしたの?」 |
夫: | 「うん、25年前に君と家具選びをしたときのことさ」 |
妻: | 「まあ。あの頃はほんと、若かったわよね」 |
夫: | 「お義父さんに反対されて、なかば駆け落ち気味だったし。慌てて選んだもんなあ」 |
妻: | 「でも、あなた食卓にはすごくこだわって」 |
夫: | 「ああ、たとえ家を出て離れていても、家族が集まる場所だけは絶対に必要だから」 |
妻: | 「娘の部屋にもね」 |
夫: | 家具ひとつ、食卓ひとつで、生活に彩りが生まれ、家族はつながっていく。 幸せを紡ぐ糸のように、インテリアはこうして物語を結んでいくのだろう。 |