「家族の食卓/もうひとつの物語/後編」 2024年11月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘:紅葉(くれは)/声優の卵(21歳)・・・真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた
  • 先輩:冬紀(25歳)/若手声優・・・沖縄出身。優しく親切で、自然体で人に接するが、実は沖縄での家族や地元を大切に思っており、東京での生活にも孤独を感じることがある。娘にとって、東京での厳しい生活の中で心の支えとなる先輩。彼の優しさに触れるたびに、紅葉は自分の父の面影を感じ、心の距離が近づいていく

Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語』/後編」

<シーン1/声優養成所>
SE(養成所の環境音)
娘:「おつかれ様でした!」
先輩:「おつかれ!今日もバイト?」
娘:「はい!」
先輩:「たしか・・フィットネスジム・・だっけ?」
娘:「はい、自由な時間に働けるので助かってます」
先輩:「だけどあんまり無理しないようにね。
昼も、和食屋さんでお皿洗ってるんでしょ?
うちのレッスンは、ダンスもまざってるから体力消耗するし」
娘:「あ、ダンスは小さい頃から踊ってたんで」
先輩:「それでも疲れる。人間だから」
娘:「大丈夫です!」
先輩:「まあ、若いからがんばれるんだろうけど」
娘:「ありがとうございます!」
先輩:そういえば、この子、最初の挨拶で面白いこと言ってたよな。
なんだっけな。え〜っと・・
■一瞬、回想シーン
娘:「みなさん、はじめまして!
今日から養成所でお世話になります!よろしくお願い申します!
養成所って、私にとっては夢を育てる場所。
だから、”養成”という文字は、フェアリーの”妖精”。
私はいつも脳内変換しています!」
先輩:それで、記憶に残ってるんだよな。
人に覚えてもらう、ってのもこの仕事じゃ重要だから。
実際僕もそれ以降、彼女のこと気になってるんだよな。
<シーン2/夜の渋谷/バイト終わりの紅葉>
SE(繁華街の環境音)
娘:「お先に失礼します!」
先輩:「あれ?」
娘:「あ、先生!」
先輩:「おいおいやめてくれよ、こんな往来で”先生”だなんて」
娘:「だって先生じゃないですか?」
先輩:「養成所でレッスンしてるってだけだろ。
せめて”先輩”にしてくれ。
僕はまだ25歳なんだぜ」
娘:「年齢なんて関係ないと思います。
たとえ小学生だって、私の師匠なら”先生”だわ」
先輩:「そうか。
にしても、遅くまでバイト、がんばってるね」
娘:「はい。
だって東京って家賃すっごく高いんだもの」
先輩:「君は東京の人じゃなかったね」
娘:「そうです、東京でてきてびっくりしました。
 バイトしてもバイトしても家賃と授業料に消えていく感じ」
先輩:「そうだよなあ、駆け出しの声優は結構バイトしてるもんなあ。
ましてや、養成所なら出て行く方が多いだろうし」
娘:「そうなんです。だから自炊もしてるんですけど
東京は物価も高い」
先輩:「自炊してるんだ。立派なもんだ」
娘:「なんで?たんに生活費を浮かすためですよ」
先輩:「自炊は体にもいいだろ。
とにかく体が一番だからな。
あとは、規則正しい生活を送ること。
ってそれは難しいか。
まあ、無理せずにがんばって」
娘:「先輩」
先輩:「ん?なんだ?」
娘:「先輩って、お父さんみたいですね」
先輩:「なんじゃ、それ?
まだ25だって言っただろ」
娘:「ふふ」
先輩:結局、彼女とは、明るい夜の街をいつまでも話しながら歩いた。
話は尽きず、一駅歩くくらいのボリュームだっただろう。
<シーン3/収録スタジオ/初めての仕事>
SE(スタジオの環境音/「はい本番!はい、キュー!」)
娘:「家具を選ぶときは、まず目を閉じてください」
先輩:「はい、閉じました」
娘:「そこに、家族の笑顔は見えますか?」
先輩:「え?」
娘:「それが、家具を選ぶ基準です」
SE(スタジオの環境音/「よしOK!このテイクでいこう」)
娘:「ありがとうございました!」
先輩:音響監督が笑顔でうなづく。
彼女が声優養成所に通い始めてもうすぐ1年。
養成所から所属へ。
妖精が羽ばたく時期。

初めて彼女に入った仕事は、なんと僕との掛け合いだった。

それは、家具屋さんの企業アニメーション。
どうしてなかなか、いい表現じゃないか。
娘:「おつかれさまです」
先輩:「おつかれ。一発オーケーかあ。
すごくよかったよ」
娘:「本当ですか?」
先輩:「ああ、レッスンのときより、何倍もいい表情だ」
娘:「実は・・・うちの実家、家具屋さんなんです」
先輩:「だから・・・言葉の意味もちゃんと理解してたんだね」
娘:「はい、家族をつなぐ家具。いつも父が言っている言葉です」
先輩:「そっか・・・
ねえ、つかぬことを聞くけど・・・
東京へ来てから、何回実家へ帰ったの?」
娘:「あ・・」
先輩:「うん?」
娘:「一度も帰ってない・・・」
先輩:「じゃあ、そろそろ帰るタイミングじゃない?」
娘:「はい」
BGM「インテリアドリーム」
<シーン4/東京駅/新幹線ホーム>
SE(新幹線ホームの環境音)
先輩:仕事ができる人は、行動するのも早い。
次の日の朝、彼女は新幹線のホームに立っていた。
娘:「先輩、忙しいのにこんなとこにいていいんですか?」
先輩:「うん、昨日君が明日帰るってきいたら
なんだか心配になっちゃってさ」
娘:「新幹線くらい1人で乗れますよ〜」
先輩:「いや、そういう話じゃないだろ」
娘:「やっぱり先輩、お父さんみたい」
先輩:「はいはい。
じゃあお父さんとようく話してくるように。
東京へ戻ったら、家具の話、食卓の話、聞かせてくれ」
娘:「了解しました」
先輩:まるでLINEの絵文字のような笑顔で、
彼女は新幹線に乗り込んだ。
遠ざかるのぞみ号の彼方から、お父さんの声が聞こえる・・
ような気がした。
父:「おかえり」
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