ボイスドラマを聴く
ボイスドラマの内容
登場人物
- 娘:紅葉(くれは)/声優の卵(21歳)・・・真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた
- 先輩:冬紀(25歳)/若手声優・・・沖縄出身。優しく親切で、自然体で人に接するが、実は沖縄での家族や地元を大切に思っており、東京での生活にも孤独を感じることがある。娘にとって、東京での厳しい生活の中で心の支えとなる先輩。彼の優しさに触れるたびに、紅葉は自分の父の面影を感じ、心の距離が近づいていく
Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語』/後編」
<シーン1/声優養成所> | |
SE | (養成所の環境音) |
娘: | 「おつかれ様でした!」 |
先輩: | 「おつかれ!今日もバイト?」 |
娘: | 「はい!」 |
先輩: | 「たしか・・フィットネスジム・・だっけ?」 |
娘: | 「はい、自由な時間に働けるので助かってます」 |
先輩: | 「だけどあんまり無理しないようにね。 昼も、和食屋さんでお皿洗ってるんでしょ? うちのレッスンは、ダンスもまざってるから体力消耗するし」 |
娘: | 「あ、ダンスは小さい頃から踊ってたんで」 |
先輩: | 「それでも疲れる。人間だから」 |
娘: | 「大丈夫です!」 |
先輩: | 「まあ、若いからがんばれるんだろうけど」 |
娘: | 「ありがとうございます!」 |
先輩: | そういえば、この子、最初の挨拶で面白いこと言ってたよな。 なんだっけな。え〜っと・・ |
■一瞬、回想シーン | |
娘: | 「みなさん、はじめまして! 今日から養成所でお世話になります!よろしくお願い申します! 養成所って、私にとっては夢を育てる場所。 だから、”養成”という文字は、フェアリーの”妖精”。 私はいつも脳内変換しています!」 |
先輩: | それで、記憶に残ってるんだよな。 人に覚えてもらう、ってのもこの仕事じゃ重要だから。 実際僕もそれ以降、彼女のこと気になってるんだよな。 |
<シーン2/夜の渋谷/バイト終わりの紅葉> | |
SE | (繁華街の環境音) |
娘: | 「お先に失礼します!」 |
先輩: | 「あれ?」 |
娘: | 「あ、先生!」 |
先輩: | 「おいおいやめてくれよ、こんな往来で”先生”だなんて」 |
娘: | 「だって先生じゃないですか?」 |
先輩: | 「養成所でレッスンしてるってだけだろ。 せめて”先輩”にしてくれ。 僕はまだ25歳なんだぜ」 |
娘: | 「年齢なんて関係ないと思います。 たとえ小学生だって、私の師匠なら”先生”だわ」 |
先輩: | 「そうか。 にしても、遅くまでバイト、がんばってるね」 |
娘: | 「はい。 だって東京って家賃すっごく高いんだもの」 |
先輩: | 「君は東京の人じゃなかったね」 |
娘: | 「そうです、東京でてきてびっくりしました。 バイトしてもバイトしても家賃と授業料に消えていく感じ」 |
先輩: | 「そうだよなあ、駆け出しの声優は結構バイトしてるもんなあ。 ましてや、養成所なら出て行く方が多いだろうし」 |
娘: | 「そうなんです。だから自炊もしてるんですけど 東京は物価も高い」 |
先輩: | 「自炊してるんだ。立派なもんだ」 |
娘: | 「なんで?たんに生活費を浮かすためですよ」 |
先輩: | 「自炊は体にもいいだろ。 とにかく体が一番だからな。 あとは、規則正しい生活を送ること。 ってそれは難しいか。 まあ、無理せずにがんばって」 |
娘: | 「先輩」 |
先輩: | 「ん?なんだ?」 |
娘: | 「先輩って、お父さんみたいですね」 |
先輩: | 「なんじゃ、それ? まだ25だって言っただろ」 |
娘: | 「ふふ」 |
先輩: | 結局、彼女とは、明るい夜の街をいつまでも話しながら歩いた。 話は尽きず、一駅歩くくらいのボリュームだっただろう。 |
<シーン3/収録スタジオ/初めての仕事> | |
SE | (スタジオの環境音/「はい本番!はい、キュー!」) |
娘: | 「家具を選ぶときは、まず目を閉じてください」 |
先輩: | 「はい、閉じました」 |
娘: | 「そこに、家族の笑顔は見えますか?」 |
先輩: | 「え?」 |
娘: | 「それが、家具を選ぶ基準です」 |
SE | (スタジオの環境音/「よしOK!このテイクでいこう」) |
娘: | 「ありがとうございました!」 |
先輩: | 音響監督が笑顔でうなづく。 彼女が声優養成所に通い始めてもうすぐ1年。 養成所から所属へ。 妖精が羽ばたく時期。 初めて彼女に入った仕事は、なんと僕との掛け合いだった。 それは、家具屋さんの企業アニメーション。 どうしてなかなか、いい表現じゃないか。 |
娘: | 「おつかれさまです」 |
先輩: | 「おつかれ。一発オーケーかあ。 すごくよかったよ」 |
娘: | 「本当ですか?」 |
先輩: | 「ああ、レッスンのときより、何倍もいい表情だ」 |
娘: | 「実は・・・うちの実家、家具屋さんなんです」 |
先輩: | 「だから・・・言葉の意味もちゃんと理解してたんだね」 |
娘: | 「はい、家族をつなぐ家具。いつも父が言っている言葉です」 |
先輩: | 「そっか・・・ ねえ、つかぬことを聞くけど・・・ 東京へ来てから、何回実家へ帰ったの?」 |
娘: | 「あ・・」 |
先輩: | 「うん?」 |
娘: | 「一度も帰ってない・・・」 |
先輩: | 「じゃあ、そろそろ帰るタイミングじゃない?」 |
娘: | 「はい」 |
BGM | 「インテリアドリーム」 |
<シーン4/東京駅/新幹線ホーム> | |
SE | (新幹線ホームの環境音) |
先輩: | 仕事ができる人は、行動するのも早い。 次の日の朝、彼女は新幹線のホームに立っていた。 |
娘: | 「先輩、忙しいのにこんなとこにいていいんですか?」 |
先輩: | 「うん、昨日君が明日帰るってきいたら なんだか心配になっちゃってさ」 |
娘: | 「新幹線くらい1人で乗れますよ〜」 |
先輩: | 「いや、そういう話じゃないだろ」 |
娘: | 「やっぱり先輩、お父さんみたい」 |
先輩: | 「はいはい。 じゃあお父さんとようく話してくるように。 東京へ戻ったら、家具の話、食卓の話、聞かせてくれ」 |
娘: | 「了解しました」 |
先輩: | まるでLINEの絵文字のような笑顔で、 彼女は新幹線に乗り込んだ。 遠ざかるのぞみ号の彼方から、お父さんの声が聞こえる・・ ような気がした。 |
父: | 「おかえり」 |