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ボイスドラマの内容
登場人物
- 彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/最近ストレスで不眠症気味
- 彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ
Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/後編」
アナウンス: | 皆さま、当機207便をご利用くださいましてありがとうございます。 日本までの飛行時間は11時間10分を予定しております。 ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。 それでは、ごゆっくりおくつろぎください |
彼: | シートベルト着用のサインが消えると同時に 微かな、本当に微かな寝息が聴こえてきた。 いや、失礼のないように言っておくと、多分一般の人には聴こえない音。 睡眠外来で働く医師でないととらえられない音階かもしれない。 音の主は、通路を挟んだ反対側に座る・・・キャビンアテンダント・・・? ああ、確か・・・デッドヘッドだったか。 勤務中の移動のため、乗客として搭乗する、ってあれだっけ。 紺色のカーディガンの下から覗く航空会社の制服がそれを物語っている。 小さな寝息のリズムのなか、不定期に訪れる不協和音。 睡眠障害、かな。 CAって、きっとストレスも多いのだろう。 知らず知らず、彼女に視線を向けた刹那、瞳がゆっくりと開いた。 |
彼: | 「あの・・・」 自分でも信じられないことだったが、通路越しに彼女に声をかけてしまった。 |
彼女: | 「はい」 |
彼: | その気怠げな声に思わず気圧(けお)される。 不眠症と思しき彼女に対し、気づけば私はひどく饒舌になっていた。 |
彼女: | 「それではまた・・」 |
彼: | 一期一会に感謝して、会話を終わらせると、 もう彼女の方へ向き直る勇気などあるはずもない。 夜間飛行の機内音が子守唄になり、いつしか眠りに落ちていった・・・。 |
彼: | 帰国してすぐ、私はインテリアショップに足を向けた。 そこには眠りに関する私の論文が展示されている。 不眠の原因や、睡眠の大切さを表示しながら 快眠を誘(いざな)う寝具の選び方。 壁一面に、わかりやすいグラフィックとともにディスプレイされた 眠りの情報たちは、まさにラボ(研究所)のようだ。 その前にたたずみ、ゆっくりイラストや文字を目で追う一人の女性。 白衣、ではなく白いコートを着こなすその姿は・・・ なんと、信じられない偶然が、またしても私の心を震わせた。 |
彼女: | 「あら」 |
彼: | 「こんな偶然って、あるんですね」 |
彼女: | 「ホントに」 |
彼: | 「ひょっとしたら、あなたの不眠を救え、という暗示なのかもしれませんね」 |
彼女: | 「うふふ」 |
彼: | 「不眠の原因って、」 |
彼女: | 「ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよね?」 |
彼: | 「あ、はい・・・」 |
2人: | (笑) |
彼: | 彼女は笑うと小さなえくぼが現れる。 その笑顔の眩しさに、思わず目を伏せた。 |
彼女: | 「私、寝姿がよくないんです」 |
彼: | 「え?」 |
彼女: | 「っていうか、寝相がとっても悪いの」 |
彼: | 「そ、それは・・・」 |
彼女: | 「これも睡眠障害の原因?」 |
彼: | 「あ、そ、そうかもしれません・・・」 |
彼女: | 「寝返りばっかりうってるし」 |
彼: | 「大丈夫、寝返りにもちゃんと役目があるんです」 |
彼女: | 「枕が合わないっていうのもあるのかしら」 |
彼: | 「枕の高さも大切ですよ」 |
彼女: | 「あとは・・・」 |
彼: | なんだか、私を質問攻めにして、彼女は楽しんでいるように見える。 人生の1/3は睡眠時間。 私はいつもその時間が快適に過ごせるよう、睡眠障害の患者さんに接してきた。 でも今日からは、残り2/3に幸せを見つけるのも悪くない。 |