「ナイトフライト/ねむりデザインLABO」後編 2023年1月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/最近ストレスで不眠症気味
  • 彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ
アナウンス:皆さま、当機207便をご利用くださいましてありがとうございます。
日本までの飛行時間は11時間10分を予定しております。
ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。
それでは、ごゆっくりおくつろぎください
彼:シートベルト着用のサインが消えると同時に
微かな、本当に微かな寝息が聴こえてきた。
いや、失礼のないように言っておくと、多分一般の人には聴こえない音。
睡眠外来で働く医師でないととらえられない音階かもしれない。
音の主は、通路を挟んだ反対側に座る・・・キャビンアテンダント・・・?
ああ、確か・・・デッドヘッドだったか。
勤務中の移動のため、乗客として搭乗する、ってあれだっけ。
紺色のカーディガンの下から覗く航空会社の制服がそれを物語っている。
小さな寝息のリズムのなか、不定期に訪れる不協和音。
睡眠障害、かな。
CAって、きっとストレスも多いのだろう。
知らず知らず、彼女に視線を向けた刹那、瞳がゆっくりと開いた。
彼:「あの・・・」

自分でも信じられないことだったが、通路越しに彼女に声をかけてしまった。
彼女:「はい」
彼:その気怠げな声に思わず気圧(けお)される。
不眠症と思しき彼女に対し、気づけば私はひどく饒舌になっていた。
彼女:「それではまた・・」
彼:一期一会に感謝して、会話を終わらせると、
もう彼女の方へ向き直る勇気などあるはずもない。
夜間飛行の機内音が子守唄になり、いつしか眠りに落ちていった・・・。
彼:帰国してすぐ、私はインテリアショップに足を向けた。
そこには眠りに関する私の論文が展示されている。
不眠の原因や、睡眠の大切さを表示しながら
快眠を誘(いざな)う寝具の選び方。
壁一面に、わかりやすいグラフィックとともにディスプレイされた
眠りの情報たちは、まさにラボ(研究所)のようだ。
その前にたたずみ、ゆっくりイラストや文字を目で追う一人の女性。

白衣、ではなく白いコートを着こなすその姿は・・・
なんと、信じられない偶然が、またしても私の心を震わせた。
彼女:「あら」
彼:「こんな偶然って、あるんですね」
彼女:「ホントに」
彼:「ひょっとしたら、あなたの不眠を救え、という暗示なのかもしれませんね」
彼女:「うふふ」
彼:「不眠の原因って、」
彼女:「ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよね?」
彼:「あ、はい・・・」
2人:(笑)
彼:彼女は笑うと小さなえくぼが現れる。
その笑顔の眩しさに、思わず目を伏せた。
彼女:「私、寝姿がよくないんです」
彼:「え?」
彼女:「っていうか、寝相がとっても悪いの」
彼:「そ、それは・・・」
彼女:「これも睡眠障害の原因?」
彼:「あ、そ、そうかもしれません・・・」
彼女:「寝返りばっかりうってるし」
彼:「大丈夫、寝返りにもちゃんと役目があるんです」
彼女:「枕が合わないっていうのもあるのかしら」
彼:「枕の高さも大切ですよ」
彼女:「あとは・・・」
彼:なんだか、私を質問攻めにして、彼女は楽しんでいるように見える。
人生の1/3は睡眠時間。
私はいつもその時間が快適に過ごせるよう、睡眠障害の患者さんに接してきた。
でも今日からは、残り2/3に幸せを見つけるのも悪くない。
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