「大学祭のピルエット〜新生活応援」前編 2023年11月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 母/妻(51歳/21歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在は社会福祉法人で介護士をしながら、市民ミュージカル劇団で教えているが息子は知らない
  • 息子(21歳)・・・大学4年生でYouTuber。特技を生かして映像作家になるのが夢

(※脚注)

  • ピルエット・・・バレエ用語。 体を片脚で支え,それを軸に,そのままの位置でこまのように体を回転させること
  • パンシェ・・・バレエ用語。 片脚を前、横、後ろのいずれかの方向に上げ、上体を保ったまま、脚を上げた方向の反対側に傾ける動き

Story〜「大学祭のピルエット〜新生活応援/前編」

#1<母51歳/息子21歳>
息子:「ねえ、ママ。このひとだれ?」
母:息子がキッチンへ持ってきたのは1枚の写真。
それは、スポットライトを浴びてパンシェ(※)を決める、赤いドレスのバレリーナ。
・・・30年前の私だ。
やあねえ、どこから掘り出してきたのかしら。
息子:「ママ?」
母:「さあ、だれかしら?」
息子:「この写真、パパのカバンから落ちてたんだけど、きれいな人だよね」
母:「そう?」
息子:「え・・・ひょっとして・・・これ、ママ・・・なの?」
母:「どうかな」
息子:「すご!ママ、カッケー!」
母:「そういう口の聞き方やめなさい」
息子:「ダンスとかやってたんだ?」
母:「クラシックダンス。バレエよ」
息子:「ぜんぜん知らなかった!」
母:そういえば、言ってなかったわね。
私、幼い頃からクラシックバレエをやってて、いつも踊ってた。
息子:「これはいつの写真?何歳?」
母:これは・・・
そう、大学最後の年だ。
21歳だからちょうど今のこの子と同い年ね。         
大学祭のときのステージだったと思うけど。
ステージで踊り、その衣装のままカフェで給仕もしたんだわ。
同級生のパパとは演劇部で一緒だったんだけど、
私はミュージカル志望だったから、ダンス部とかけもち。
いつか2人でミュージカルの大舞台に立とう、なんて
大それたことも話し合ってたっけ、うふふ。
息子:「なにエモい顔してんの?」
母:「おっと、ごめんごめん。 
ちょ〜っと思い出しちゃってね」
息子:「パパとのこと?」
母:「うん。スマホだけど別の写真も見る?」
息子:「見たい!」
母:「はい、どうぞ」
息子:「え〜なにこれ?家具がいっぱいじゃん」
母:「大学祭の写真はその1枚しか私持ってないけど、
そのあと2人で家具を見にいったのよ」
息子:「卒業後に同棲したってこと!?」
母:「同棲じゃなくて、私の新生活。
ママの引越しが決まってたから、一気に家具を揃えたの」
息子:「リッチ〜」
母:「違うわよ。家具屋さんでセールをやってたの。
それで、ソファからダイニング、ベッドにカーテンまでまとめて買っちゃった。
選んでくれたのはパパだけどね」
息子:「じゃあ、そのときからパパとは付き合ってたんだ?」
母:「どうかなあ・・・そんな感じじゃなかったけど」
息子:「でもパパはママのこと好きだったから、今でもこの写真持ってるんでしょ」
母:「さあ、どうだか」
息子:「ママってクールだなあ」
母:「っていうより、昔からパパの方がホットでちょっぴり強引だったのよ。
私、なかなか決められない質でしょ。
オマエには絶対白が似合う!って、すべて純白の家具をパパが選んだの」
息子:「パパらしいや」
母:「私も、白い家具が好きだったからいいんだけどね・・・
白い木製の家具、ホントに素敵だったなあ・・・
新婚じゃなくたって、真っ白なインテリアに囲まれた暮らし、憧れてたもの」
息子:「なにノロケてんの」
母:「あら失礼」
息子:「でもいまはうちの家具、割と濃い色の木目じゃん」
母:「それは、パパが・・・」
息子:「やっぱパパの趣味かあ」
母:「いいえ、あなたのために選んだのよ」
息子:「え?」
母:「卒業してから7年後にパパとママが結婚してあなたが生まれたから」
息子:「あ・・」
母:「あなたとの新しい生活のために、パパがこの家具たちを選んだのよ」
息子:「そっか・・・」
母:「木の家具を選んだのは赤ちゃんのあなたのため」
息子:「うん」
母:「あなたを守るために、自然の優しい材料にして」
「あなたが優しい心を持てるように、優しい木目の色合いにして」
「あなたの未来のために、環境にも配慮して、って」
息子:「すごいな・・・」
母:「木の家具は耐久性もあって、お手入れもかんたん。
それに木って呼吸するから、部屋の中の湿度を調整してくれるでしょ」
息子:「そうなんだ・・・」
母:「次はあなたの新生活ね」
息子:「なにそれ」
母:「1人暮らし?それとも結婚・・・」
息子:「まだ早くない?」
母:「人生に早いも遅いもないでしょ。この世は舞台、人はみな役者なんだから」
息子:「ママ・・・」
母:息子が切なそうな表情で私を見つめてくる。
いつまでもそばにおいておきたいけど、新しい一歩は自分で考えて踏み出さないと。
独り立ちをするとき、あなたを優しく見守ってくれるのは、きっと新しい家具たち。
そうやって人生を慈しみながら、いつか大切な人を見つけてほしいな。
誰だって、人生の戯曲は自分で書いて仕上げるものだから。
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