「嫁入りトラックに乗って/婚礼家具/後編」 2024年9月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • お嫁さん(23歳)=ハルナ・・・東京の大学時代に知り合った彼と婚約
  • お婿さん(23歳)=マサヒロ・・・浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子
  • 嫁の母(44歳)=エミリ・・・名古屋生まれ名古屋育ち
  • お嫁さん(30年後=54歳)=ハルナ・・・結婚してから30年目。娘が嫁いでいく
  • お嫁さんの娘(29歳)=えみり・・・東京の同棲していた彼と結婚して名古屋へ
  • 娘の彼氏(27歳)=まさひろ・・・娘と同棲していたが心機一転名古屋で彼女の両親と同居へ

Story〜「嫁入りトラックに乗って/婚礼家具/後編」

<シーン1/嫁入りの日>
SE(菓子まきの音)
エミリ:「嫁入りよぉ〜!」
ハルナ:「もう、おかあさん!恥ずかしい!」
エミリ:「なにが恥ずかしいもんかい。
私もここへ嫁ぐ日は、こうやって母さんに送り出してもらったし、私の母さんも、母さんの母さんに送り出してもらったんだよ」
ハルナ:「でも、恥ずかしい」
マサヒロ:「嫁入りよぉ〜!」
ハルナ:「あなた!」
エミリ:「あなた、きちゃだめじゃないの、式の前に」
マサヒロ:「す、すいません。お二人じゃ大変だろうと思って」
ハルナ:「おかあさん、なにニヤニヤしてんのよ」
エミリ:「ううん、思い出しちゃってさ。
私が嫁ぐ日の朝、とうさんの家じゃちょっとした騒動が起こってたんだ」
ハルナ:「どんな騒動?」
エミリ:「新郎がいなくなったぞぉ、って」
ハルナ:「ええええええええ?」
マサヒロ:「それって・・・」
エミリ:「そう。いまのあなたと同じよ」
ハルナ:「おとうさんもおかあさんちに来ちゃったんだ」
エミリ:「うん。でもうちの親はしきたりに厳しかったから、”縁起悪い!””式は中止だ!”なんてわめき散らして」
ハルナ:「おじいちゃん、気が短かったもんねえ」
マサヒロ:「はは・・・」
エミリ:「裏口から、そっと追い出して。
”いいか、見つかったら問答無用で破談だからな”って」
ハルナ:「おどしじゃん、それ」
エミリ:「で、こそこそ抜け出してったら、近所の子どもに見つかっちゃって」
ハルナ:「あ〜あ」
エミリ:「それがね。菓子まきの手伝いだと勘違いされて、ず〜っと追いかけられたんだって」
ハルナ:「おとうさんらしい」
マサヒロ:「ボ、ボク、裏口から出ていきます」
エミリ:「いいのいいの。あなたは誰にも顔なんて知られていないから。
  それに、もうそんな時代じゃないでしょ」
ハルナ:「おかあさん、なんか、熱でもあるの」
エミリ:「もう〜」
マサヒロ:「あのう・・・」
エミリ:「なあに?」
マサヒロ:「どうして縁側に家具や着物が置いてあるんですか?」
エミリ:「ああ、あれ?
本当はね、嫁入りトラックがお婿さんちに着いたら
そこの縁側に並べるのがしきたりなのよ」
マサヒロ:「うちの?」
ハルナ:「無理じゃん、アパートだし」
エミリ:「でしょ。
だから、うちの縁側へ置いたの」
ハルナ:「へええ」
エミリ:「ご近所さんたちみんなから、
”立派な桐の箪笥だわ”とか”ええもんしつらえたなあ”
とかって、まあ、ものすごい評判よ」
ハルナ:「おべんちゃら言われて、ご祝儀渡したんでしょ」
エミリ:「当たり前じゃない。
ほら、あんたたちもこれ持って行きなさい」
マサヒロ:「なんですか?」
エミリ:「ご祝儀袋に決まってるでしょ」
ハルナ:「なんで、そんなもんがいるの?」
エミリ:「なに言ってんの?
嫁入りトラックは、バックできないって言ったでしょ」
マサヒロ:「え?」
エミリ:「だから、細い道とかにさしかかると、周りの車は必ず道を譲ってくれるわ。
そのときに、ご祝儀を渡すのよ」
マサヒロ:「すっごいなあ」
ハルナ:「いやだぁ〜、そんなの。私、アパートまで歩いていく」
エミリ:「ばか言わないで。
あなたは、文金高島田で、嫁入りタクシーに乗るの」
ハルナ:「嫁入りタクシ〜?」
マサヒロ:「ひょっとして、トラックの後ろに停まってる黒塗りの?」
エミリ:「ご名答〜。ツバメタクシー呼んどいたから。
後ろの扉が上に跳ね上がって、カツラのままですっと乗り込めるわよ」
マサヒロ:「ガ、ガルウィングドアって・・・
ランボルギーニか・・・」
ハルナ:「やだぁ、またまた目立っちゃう」
エミリ:「ちょっと、しっかりしなさい。
あなた、名古屋の花嫁なのよ。
もっと、胸を張って」
マサヒロ:「すごいな、名古屋」
エミリ:「さあ、もう時間よ。
準備しなさい」
ハルナ:「わかった・・」
エミリ:「おとうさんの写真も持って」
マサヒロ:「僕が持ちます」
エミリ:「ああ、お願いね」
マサヒロ:「はい!」
エミリ:「嫁入りよぉ〜!」
マサヒロ:「嫁入りよぉ〜!」
SE(菓子まきの音と近所のみなさんの拍手喝采)
(※ここだけ、途中から30年後の娘のモノローグへ)
ハルナ: こうして、私は、誉れ高い名古屋の花嫁となった。
時は移り、30年後。
いまはもう、嫁入りトラックも嫁入りタクシーもなくなっちゃったけど、気持ちは変わらない。
<シーン2/30年後/母の家に住む娘は53歳になり、この日子どもが嫁いでいく>
SE(自宅の雑踏/小鳥のさえずり)
えみり:「ママ、そろそろ時間」
ハルナ:「もうそんな時間?
早いわねえ」
えみり:「早くないわよ、ギリギリなんだから」
ハルナ:「ふふ。早いわよ。時間(とき)が経つのって」
まさひろ:「こんにちは・・・」
ハルナ:「来たわねえ、やっぱり婿さんが」
えみり:「え?」
ハルナ:「昔はね、式の前にお婿さんが花嫁さんに顔を見せるのは縁起悪いって言われてたのよ」
まさひろ:「そうなんですか、すみません」
ハルナ:「いいのいいの」
えみり:「そんなの迷信でしょ」
ハルナ:「そ、迷信。
大切なのは、あなたたちが、どれだけ幸せになれるかってこと」
まさひろ:「はい」
えみり:「幸せよ、思いっきり」
ハルナ:「そうね。
結婚式、私のわがまま聞いてくれてありがとうね」
まさひろ:「そんな。わがままじゃないです。
おかあさんに、いろいろ全部用意してもらっちゃって」
えみり:「ちょっとレトロだけどね」
ハルナ:「だって、決めてたんだもの。
娘が結婚するときは、菓子まきをやって。
みんなで嫁入りトラックに乗って式場まで行くって」
まさひろ:「楽しみにしてたんですよ、嫁入りトラック。かっこいいなあって」
ハルナ:「そう?ありがとう」
まさひろ:「こちらこそ。ありがとうございます!」
えみり:「トラックじゃないじゃん。ミニバンでしょ。しかもEVの」
ハルナ:「だって、トラックじゃ揺れるからダメでしょ。
 荷物もあなたも」
えみり:「ひどい、荷物と一緒にしないで」
まさひろ:「本当に何から何まですみません」
ハルナ:「さあ、乗って。
おばあちゃんの写真も持って」
まさひろ:「僕が持ちます」
ハルナ:「ふふ。それじゃあ行きましょ、3人で」
えみり:「4人よ、ママ」
ハルナ:「ああ、そうだったわね。
 おめでとう。幸せになるのよ」
(※2人同時に言って笑う)
えみり:「はい!」
まさひろ:「はい!」
ハルナ:少しだけ目立つようになったお腹をさすりながら私とお婿さんに挟まれて、娘の笑顔は幸せに包まれていた。
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