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ボイスドラマの内容
登場人物
- 妻(32歳/42歳)・・・一部上場企業の企画・広報部チームリーダー。今年8歳になる娘の母親。最近のライフスタイルはヴィーガン食で家族もそれに倣っている
- 夫(32歳/42歳)・・・大学院の人工知能科学研究科を修了し、先端ITC企業から請われて入社。AIによる社会貢献を進めている
- 娘(8歳/18歳)・・・小学校3年生/大学1年生。寡黙だが、SDGs意識高い
Story〜「桜花抄〜新居と新生活/前編」
<シーン1/夜桜の公園> | |
SE | (花見の風景) |
妻: | 「今日(けふ)のためと、思(おも)ひて標(しめ)し、あしひきの、峰(を)の上(へ)の桜(さくら)、かく咲きにけり」 |
夫: | 「それは・・・まだ聞いたことのない歌だ」 |
妻: | 「じゃあ、もう一首。 あしひきの、山の際(ま)照らす、桜花(さくらばな)、この春雨(はるさめ)に、散(ち)りゆかむかも」 |
夫: | 「どういう意味?」 |
妻: | 「最初の歌は、 今日のために目星をつけておいた桜が咲いてくれた。 2つ目は、 山間を照らすように咲いている桜の花が春の雨で散っちゃうのはやだなあ。 って意味。 桜、きれいだねえ。桜さん、ありがとう。雨が降っても散らないでね。 ってことだよ。ねっ」 |
夫: | 妻の横で娘が、何も言わずに微笑む。 8歳の娘は、妻の詠む和歌が大好き。意味もわからず、ニコニコ聞いている。 いや、いつも説明されてるから意味はわかっているのかな。 10年前。 まだ結婚する前に、妻と2人で歩いた桜並木。 世の中がどんどん変わっても毎年、美しい花を咲かせてくれる。 |
妻: | 「和歌を詠むと、桜が一層美しく見えるよね」 |
夫: | 娘が大きくうなづく。本当にそう思っているのか。 半分疑りながら、娘を真ん中にして、3人で手をつないで歩く。 幸せに包まれる瞬間。 |
妻: | 「今日はね、10年前 にパパとママがデートしたところへ行くのよ」 |
夫: | デート? そうか、あれはデートだったんだな。 娘がはしゃぎ始めた。 |
妻: | 「さあ、桜のトンネルを抜けていくわよ」 |
夫: | 妻が娘の手をひく。 私はその手にひっぱられるように、早足で花曇の並木を歩いていった。 |
<シーン2/インテリアショップ> | |
娘: | 「わぁ〜すごぉい」 |
夫: | 「ほら、プリンセスのお部屋も」 |
妻: | 「まあねー。 なんか、AIでビッグデータとか研究してるあなたらしい答え」 |
夫: | なるほど。うまい表現だな。 さすが、大学で国文学を専攻してただけある。 っていうより、企画部のチームリーダーだもんな。 |
妻: | 「私は尊敬してるの」 |
娘: | 「ほんとだ。ピンクがかわいい」 |
夫: | はしゃぎまわる娘に目を細める妻。 実は、私の方が妻より嬉しいのだが。 今日の目的は、新生活の家具選び。 とは言っても、10年前のように一人暮らし用ではなく、家族のため。 実は、もうすぐ新しい家が完成するんだ。 そう、新築の新居。 妻のこだわりで、作りつけの収納は、あえて最小限にした。 自分たちで家具を選んで、イメージ作りをしたいらしい。 娘の成長に合わせた節目節目で、イメージチェンジもするのだという。 そういうライフスタイル いいものだなあ。 |
妻: | 「ねえ、自分のお部屋はどんな風にしたい?」 |
娘: | 「不思議の国みたいなお部屋」 |
妻: | 「そうかあ。じゃあこっちの部屋かな」 |
娘: | 「あ〜」 |
夫: | そこは、キュートでおしゃれなプリンセス系インテリアのお部屋。 シャビーシックなピンクと白を基調にしたアイテムが可愛らしい。 プリンセスを象徴する天蓋付きのベッド。 壁にはラインストーンで彩られた名画が煌めいている。 |
妻: | 「ママとパパのお部屋はこっちよ」 |
夫: | 「おお、いいねえ、ナチュラル系かい」 |
妻: | 「今までのお部屋はナチュラルだったけど、新しいおうちは、 ナチュラル系をベースに、シンプルな和モダンのテイストにしたいの」 |
夫: | 「落ち着いた空間だね」 |
妻: | 「それに居心地のいい空間」 |
夫: | 「気分が上がるなあ」 |
妻: | 「あ、あと、キッチンも見なくちゃ」 |
娘: | 「やったぁ」 |
夫: | そうだった。 妻は子どもが生まれてから、ヴィーガンのライフスタイル。 ヴィーガンというのは、動物性食品を一切食べず、動物由来の製品も使わない。 肉も魚も乳製品も卵もとらないし、レザーや羽毛も全然持っていない。 私も妻の影響でスローライフを実践したら、健康診断の結果が驚くほど良くなった。 もちろん、娘の食生活も同じ。生まれてこのかたアレルギー知らずだ。 |
妻: | 「和モダンのキッチンってスローライフにピッタリね」 |
夫: | シンプルでオシャレなキッチンを前に、妻の顔がほころぶ。 妻と娘が2人、並んで料理する姿を想像して、私も笑顔になる。 いやいや 、忘れちゃいけない。私も料理にはちゃんと参加するから。あまり役には立たないが。 |
<シーン3/10年後のキッチン> | |
SE | (料理をする音/包丁で野菜を切る音) |
娘: | 「ママ、塩こうじで豆乳マヨネーズ作ったから毒味してみて」 |
妻: | 「やあね。毒味じゃなくて味見でしょ」 |
夫: | 新築の家に引っ越してから10年。 大学1年生となった娘が、キッチンで妻に話しかける。 今や、ヴィーガンのレシピは妻よりも豊富だ。 |
娘: | 「パパ、今日の料理はぜんぶ私が作ったのよ」 |
夫: | 「へえ、珍しいな。大学で実習でもあるのかい」 |
娘: | 「そんなじゃないんだなあ。 さ、2人とも座って」 |
夫: | 妻と2人、ダイニングチェアに座る。 10年前に購入したダイニングテーブルは、年とともに深い味わいを醸し出している。 |
娘: | 「比べこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」 20年目の婚約記念日、おめでとう」 |
夫: | 「え」 |
妻: | 「ああ」 |
BGM | ♪インテリアドリーム |
娘: | 「10年前にパパとママが教えてくれたじゃない。 20年前の今日、パパがママにプロポーズしたこと。 ちゃんと覚えてるんだよ」 |
夫: | 「そうか。そうだったな」 |
妻は目に涙を浮かべて微笑んでいる。 | |
娘: | 「さっきの歌、わかった?」 |
妻: | 「ずうっと伸ばしてきた私の髪が、肩より長くなりました。 あなた以外にこの髪を結い上げてくれる人などいません」 |
娘: | 「さすが、ママ。正解。 伊勢物語ね。プロポーズの歌」 |
夫: | こんなに素晴らしい母と娘と、一緒にいられる幸せを私はかみしめていた。 ありがとう。 |