「嫁入りトラックに乗って/婚礼家具/前編」 2024年9月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • お嫁さん(23歳)=ハルナ・・・東京の大学時代に知り合った彼と婚約
  • お婿さん(23歳)=ヒビノ・・・浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子
  • 嫁の母(44歳) =エミリ・・・名古屋生まれ名古屋育ち

Story〜「嫁入りトラックに乗って/婚礼家具/前編」

<シーン1/自宅リビングにて>
SE(戸建て/庭に小鳥のさえずり)
ハルナ:「嫁入りトラック〜!?
ないないないない。ありえない」
エミリ:「なにを言ってるの。
結婚するときは、菓子まきをして嫁入りトラック。
あたりまえでしょう」
ハルナ:「そんな恥ずかしいこと、絶対にいやだぁ」
エミリ:「恥ずかしいことなんてありません。
 みんなやってるんだから」
ハルナ:「うえ〜ん。あなたも、なんか言ってよぉ」
マサヒロ:「あのう、おかあさん。
新居のアパート、前の道は細いのでトラックなんて入れないかも・・」
エミリ:「まだあなたから”おかあさん”と呼ばれる間柄じゃありません!」
マサヒロ:「す、すいません」
ハルナ:「あやまらないで〜。しっかりしてぇ。江戸っ子でしょ」
エミリ:「あなたには名古屋の文化を一度教えてあげないといけないわね」
マサヒロ:「は、はい」
ハルナ:「はい、じゃない」
エミリ:「名古屋人はね、普段は倹約をしてつましく暮らしているの。
だけど、いざというとき。
例えば、娘を嫁にだすときね。
嫁ぐ娘に惨めな思いをさせないために一生分の荷物を持たせて送り出すのよ。
それが、尾張徳川家のお膝元、名古屋の嫁入りなんです」
ハルナ:「それ、江戸時代の話でしょ」
エミリ:「とにかく!
嫁入りするときは紅白幕の嫁入りトラック!
道が細かろうとなんだろうと新居までたどり着きます!」
マサヒロ:「う・・・」
エミリ:「これも覚えておきなさい・
嫁入りトラックっていうのは、どんなに道が細くても、前進あるのみ!
間違ってもバックなんてしませんから!」
ハルナ:「雨降ったらどうするのよ」
エミリ:「ハレの日に雨なんて降りません!」
<シーン2/家具屋さんにて>
SE(家具屋さんの商談デスクにて)
エミリ:「絶対にダメです!
桐箪笥と三面鏡と羽毛布団。
この3つがなくて、娘を嫁に出せますか!」
ハルナ:「だーかーらー、江戸時代じゃないんだって。
新居だって、戸建てじゃなくて小さなアパートなんだから」
マサヒロ:「あ、おかあさん。
実は新居には作りつけの収納もあるんです。
それに狭い2DKなんで、箪笥やドレッサーはちょっと・・」
エミリ:「だからまだ”おかあさん”と呼ばないで!」
マサヒロ:「す、すいません」
ハルナ:「毎回謝るなっつーの」
エミリ:「私も、私の母も、そのまた母も、代々み〜んな名古屋で生まれ、名古屋で育ったんです。
東京もんの余所者に、名古屋のしきたりについてあれこれ言われたくありません!」
マサヒロ:「は、はい」
ハルナ:「ちょっとぉ!しっかりしてよ!江戸っ子なんでしょ」
マサヒロ:「そんな、君まで江戸っ子とか、時代劇みたいなこと言わないでよ」
エミリ:「ごちゃごちゃ言ってないで。
ああ、お父さんが生きてたら、こんな、余所者にバカにされることなんてなかったのに。よよよ・・・」
ハルナ:「やめてよ、おかあさん。
家具屋さんも困っちゃってるじゃん」
エミリ:「あらそう、家具屋さん。
じゃあさっきの桐箪笥、もういっかい見せてちょうだい」
ハルナ:「あ〜あ。
ん?ちょっ、おかあさん、これ。よく見てこれ」
マサヒロ:「お、おお」
エミリ:「笑止。なに言ってるんだか。
これは一枚板の桐無垢なの。
あなたの孫の代まで使える逸品なのよ」
マサヒロ:「へえ〜」
エミリ:「さああなた。
引き出しを開けてみなさい」
マサヒロ:「は、はい」
ハルナ:「なに、言うこと聞いてんのよ」
マサヒロ:「だって・・・」
SE(引き出しをすうっと開けて、すうっと閉める=音はしないかも)
マサヒロ:「うわ、すごい」
エミリ:「でしょう。
 引き出しの中に服がぱんぱんに入ってても、
すう〜っと入って、ふわっと出てくるのよ」
マサヒロ:「ほう〜」
ハルナ:「感心しないで」
エミリ:「最高級の桐箪笥だから釘なんて一本も使ってないでしょ」
マサヒロ:「ほんとだ」
エミリ:「凹凸の楔を組み合わせて作ってあるの」
マサヒロ:「そうなんだぁ」
エミリ:「湿度が高いと、服って傷みやすいのよ。
でもね、桐の箪笥は呼吸をしてるから」
マサヒロ:「呼吸?」
エミリ:「そうよ。呼吸をする。つまり生きている桐は
箪笥の中の湿度を一年中一定に保ってくれるのよ」
マサヒロ:「中にしまった服を守ってくれるんですか」
エミリ:「そうよぉ」
ハルナ:「もう〜。感心してる場合じゃないでしょ。
 値段をもっと見なさい。値段を」
マサヒロ:「江戸っ子はね、お金にこだわらないんだよ」
エミリ:「ほお〜」
ハルナ:「あなた、どっちの味方なの!?」
マサヒロ:「別に敵味方じゃないでしょ。家族になるんだから。
 おかあさんと家具屋さんの話も聞いてみようよ」
エミリ:「あなた、なかなか話せるじゃないの」
マサヒロ:「申し訳ありません。出過ぎたことを言って」
ハルナ:「ほんとにね」
エミリ:「いい加減にしなさい」
マサヒロ:「ほかにもあるんですか?」
エミリ:「嫁入り道具〜?もっちろんあるわよ」
ハルナ:「ちょっとちょっと。油注いでるって」
エミリ:「こっち来て。見てみなさい」
マサヒロ:「三面鏡・・ですか?」
エミリ:「そう。三面鏡。
鏡はね、正面と右、左にないとだめ」
マサヒロ:「どうしてですか?」
エミリ:「着物を着るとき。
三面鏡でないと、後ろの襟元や帯が見えないじゃない。
裾が左右対称になってるか、シワやたるみがないか。
せっかく素敵な着物を着ておでかけしても後ろ姿が整ってなきゃ台無しでしょ」
マサヒロ:「なるほど」
ハルナ:「ふん、着物なんて着ないからいいもん」
エミリ:「着るわよ」
ハルナ:「どこで?」
エミリ:「あなたに子どもが生まれたら?
七五三はお着物でしょ。
入学式に卒業式。
小学校。中学校。高校。大学もかしら」
マサヒロ:「そうですね」
エミリ:「成人式は、振袖に訪問着。
親子で着物なんて素敵ねえ。
そのうち、いまのあなたみたいに未来の夫を連れてきて。
結納。結婚式。
着物で行くでしょ」
ハルナ:「あ・・」
エミリ:「それから・・・
私のお葬式」
ハルナ:「やめてよ!」
BGM「インテリアドリーム」
エミリ:「嫁入り道具も、トラックも、菓子まきもみ〜んな、あなたに幸せになってほしいから」
ハルナ:「やめてよ・・・」
マサヒロ:「ありがとうございます、おかあさん!」
エミリ:「まだ、おかあさんじゃないでしょ」
マサヒロ:「はい、すみません」
エミリ:「女手ひとつでわがままに育てちゃったからきっと手はかかると思うけど、よろしくお願いします」
マサヒロ:「はい!
かならず、かならず、娘さんを幸せに。
 約束します!」
ハルナ:「やめてよ、あなたも・・・」
マサヒロ:「僕からもお願いしていいですか?」
エミリ:「なあに?」
マサヒロ:「嫁入りトラック、ぜひお願いします!」
ハルナ:「え・・・」
エミリ:「いい人見つけたね。
 あとは、あなたたち2人の人生。
悔いのないように生きなさい」
ハルナ:「ありがとう・・・」
(※以下同時に)
ハルナ:「おかあさん!」
マサヒロ:「おかあさん!」
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