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ボイスドラマの内容
登場人物
- 娘:紅葉(くれは)/専門学校生(20歳)・・・真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた
- 父(59歳)・・・インテリアショップのオーナー兼家具職人。無口で職人気質、細やかな技術と頑固さを持ち合わせるが、家族への愛情は深い。言葉では多くを語らないが、家具を通じて娘に自分の気持ちを伝えようとしている。娘が家業を継がずに上京することを不安に感じ、心配しながらも彼女の夢を応援したいという気持ちを隠している
Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語/前編」
<シーン1/20歳の食卓> | |
SE | (食卓の環境音) |
父: | 「声優・・? そんなフワフワした職業じゃなくて、まじめに将来を考えなさい」 |
娘: | 「別にうわついてなんかいないもん! なんにも知らないくせに」 |
娘: | 売り言葉に買い言葉。 喧嘩なんて、したくもないのに・・ お父さんなんて、大っ嫌い。 |
父: | 「おまえには、いずれうちの家業も継いでもらわないと」 |
娘: | 「継がないから。 私、家具なんて興味ない」 |
父: | 「なんだと」 |
娘: | お父さんったら、言ってることが、まるっきり昭和。 タイムマシンに乗って1970年代に戻ったみたい。 って、生まれる前の時代なんて知らんけど。 |
父: | 「大学を卒業したら家の手伝いを・・」 |
娘: | 「大学卒業したら東京へ行くの」 |
父: | 「と、東京!?」 |
娘: | 「卒業後は1人暮らしするって、ずうっと言ってるじゃない」 |
父: | 「東京なんて聞いてないぞ」 |
娘: | 「東京じゃないと、ちゃんとした声優事務所なんてないもん」 |
父: | 「母さんは知ってるのか?」 |
娘: | 「お母さんにはもう話したから」 |
父: | 「なに・・?」 |
娘: | 「賛成してくれたもん。 お父さんだけだよ。 そんな古臭いこと言って反対してるのは・・ |
父: | 「うるさい・・」 |
娘: | 怒りの感情は6秒で収まるっていうけれど、 お父さんのテンションもだんだん下がっていく。 結局、私の希望は認められ、晴れて春から1人暮らしとなった。 |
<シーン2/東京〜アパート探し> | |
SE | (東京の雑踏) |
娘: | 「お父さん、 何回も言ってるけど、お部屋くらい自分で探せるって」 |
父: | 「ばか言うな。 なにも知らない田舎者がアパート探そうと思ったって 不動産屋にいいように騙されるだけだ」 |
娘: | 「ちょっと、それ、不動産屋さんで言うせりふ?」 少し困ったような表情を見せたあと、 不動産屋さんは手際よく、いくつか部屋を見せてくれた。 これが、内見、ってやつ? |
SE | (鍵を開錠する音) |
父: | 「ここはだめだ。 リビングが南向きじゃないと、陽も当たらないし、 電気代もかかるからだめだ」 |
娘: | このご予算では、これ以上のお部屋はちょっと・・ と言って、不動産屋さんが口籠る。 結局、4件目の内見でやっと、少しだけ明るい部屋に出会った。 とは言っても、電気が通っていないと、ほんのり暗い。 私は、薄暗い部屋の真ん中に立って、あたりを見回す。 |
娘: | 「ねえ、お父さん。 お部屋って、な〜んにもないと、 こんなに暗くって、寒いんだ」 |
父: | 「ああ、そうだ。 だから、どんな部屋にも、まず食卓を置くんだよ」 |
娘: | 「こんな狭い部屋に食卓なんて置いたら、よけい狭くなっちゃう」 |
父: | 「狭くなるんじゃない。あったかくなるんだよ」 |
娘: | 「え・・」 |
父: | 「別に大きな食卓を置け、って言ってるんじゃない。 2人用でも、木の香りがして、優しい食卓にすれば ここより5度はあたたかくなるぞ」 |
娘: | 優しい食卓? お父さんらしい表現だな。 だけど、私にもわかる。 うちは大家族だったから大きな6人用の食卓。 そこはいつも笑顔と、美味しい香りが溢れていた。 笑い声が飛び交う、暖かい場所。 考えたら、ベランダに面した南向きのリビングより 食卓の方があたたかかった気がする。 |
父: | 「まあ、あとはお前次第だ。 無理せずにがんばりなさい。その・・・なんだ・・」 |
娘: | 「声優?」 |
父: | 「ああ・・。 一生懸命やって、だめだったら戻ってくればいい」 |
娘: | 「また、昭和の言い方して」 |
父: | 「しょうがないだろ。昭和の人間なんだから・・」 |
娘: | 「ねえ、お父さん」 |
父: | 「どうした?」 |
娘: | 「この部屋に合う食卓、選んでくれる?」 |
BGM | 「インテリアドリーム」 |
父: | 「え・・ あ・・わかった。 お前に似合う食卓を選んでやるよ」 |
娘: | 「ありがとう」 |
父: | 「あったかい部屋にするんだぞ」 |
娘: | 「ちゃんと自炊して規則正しい生活を送ること」 |
父: | 「そ、そんなゴージャお父さんが選ぶ、私の食卓。 実物を見なくても、なんとなくわかる。 木の香りが優しくて、 ずうっと座っていたくなる食卓。 目を閉じれば、お父さんやお母さんの笑顔が浮かんでくる食卓。 ほら、笑い声まで聞こえてくる。 夢をかなえるのに一番必要なのは、 やっぱりお父さんの不器用な応援だな。 もう一度言うね。 ありがとう、お父さん。 |