「ノルディックベンチの伝説/後編」 2024年12月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • エミル(25歳)・・・ノルウェーの『北極の町』アルタに住む家具職人。教会に頼まれて礼拝堂のベンチを作っている。カレンと出会い恋に落ちる。2人で語り合った思い出をいつまでも残すために、ベンチに北極の星座の装飾を彫る。
  • カレン(18歳)・・・クリスマスの時期になると小さな村を回る聖歌隊のなかの1人。初めてアルタにやってきたとき、エミルと出会い、恋に落ちるが、聖歌隊では恋愛は禁止。2人はエミルの作ったベンチに座って語り合った・・
  • 神父(74歳)・・・アルタにある小さな教会をひとりで管理している神父。敬虔なクリスチャン
  • 参考資料/古代遺跡を照らすオーロラの町!ノルウェー・アルタ

Story〜「ノルディックベンチの伝説/後編」

<シーン1/クリスマスの前〜アルタの町の小さな教会の礼拝堂>
SE(吹雪の音〜教会の鐘の音)
神父:「皆さん、今年もクリスマスが近づいてきました。
 神の恵みに感謝し、心を一つにしてその日を迎える準備をしましょう」
エミル:ノルウェー。北極の町、アルタ。
19世紀の中ごろ。
田舎町の小さな教会で、年老いた神父が語り出す。
神父:「来週には聖歌隊もやってきます。
この礼拝堂もいつもとは違った温かな歌声で満たされるでしょう」
エミル:私の名はエミル。駆け出しの家具職人だ。
アルタで生まれ、アルタで育った。
いまは、神父さまに頼まれて、ベンチを作っている。

あとは、 聖歌隊席に置く4脚のベンチを作ればすべて完了だ。

小さな教会だから、ベンチの数も多くない。
礼拝堂に3人かけのベンチが10脚。
聖歌隊席には2人かけのベンチが4脚。
聖歌隊の人数も10人に満たないのだから問題ない。
さあ、急ごう。
来週、聖歌隊がやってくるまでに、完成させないと。
SE(工房の環境音)
<シーン2/小さな教会に聖歌隊がやってきた>
エミル:今年の聖歌隊は1人多い。
大人の女性たちに混ざって、1人だけ、多分10代、の少女が歌っていた。
ひときわ澄んだ歌声に、心が洗われるようだ。

と、感心している場合じゃない。
僕はゴスペルを聴き終えると、神父さんに目配せをして工房へと急いだ。
SE(工房の環境音)
エミル:今晩無理すれば、あと一脚くらい、ベンチは作れるだろう。
少女は1人、立って歌っていた。
本当に悪いことをした。

罪滅ぼしの意味も含めて、聖歌隊席に追加したベンチには心をこめて北極の星座を彫刻する。

北極星(ポラリス)を含む小熊座。
ポラリスは、永遠の導きと不変の象徴。
これは彼女のために。
彼女が座る左端に掘った。

北斗七星がしっぽの、大熊座(おおぐま座)。
航海や旅路の守り神だから。彼女へ。

W字の形をしたカシオペア。
美しさと知恵の象徴ってことはこれも彼女かな。
<シーン3/小さな教会の礼拝堂に最後のベンチを納品>
SE(朝の環境音/小鳥のさえずり/ベンチを設置する音)
カレン:「おはようございます」
エミル:「あ」
カレン:「まあ、なんて美しいベンチ」
エミル:「あ、ありがとうございます」
カレン:「やだ、こんな小娘に敬語なんて」
エミル:「いや、だって・・・」
カレン:「カレンって呼んでください」
エミル:「はい、わかりました・・・」
カレン:「あなたのお名前は?」
エミル:「エミルといいます・・・」
カレン:「いいお名前」
エミル:「あ、ありがと・・・」
カレン:「ベンチに彫ってあるのは星座?」
エミル:「うん、北極の星座」
カレン:「へえ〜。夜じゃないのにキラキラ輝いてる」
エミル:「金箔と銀箔を埋め込んであるから」
カレン:「座ってもいいかしら、エミル」
エミル:「あ、どうぞ・・・カレン・・」

君のために作ったんだ・・・とは言えなかったけど。

カレンは、右端のカシオペアに座った。
ギリシャ神話のカシオペアは、美しさを誇示するキャラクター。
そのために神々の怒りを招いて破滅をもたらした。
美しいカレンには、そうならないでほしいな。

聖歌隊席のベンチは、向かって右側に2脚、左側に2脚・・
だったけど、いまは左側2脚の横に、少し小ぶりなベンチが1脚。
そこにカレンがちょこんと座る。
そんなに大きくないベンチだけど、小柄なカレンが座ると不釣り合いで思わず笑った。
カレン:「このベンチは何人がけ?」
エミル:「一応2人がけだよ」
カレン:「そっか。じゃあエミル、ここに座って」
エミル:そんな・・・」

躊躇いつつ、ポラリスにもたれる。
カレンとは距離を保ち、僕はベンチの右端に寄って。
行き場のない北斗七星が、カレンと僕の間で煌めいていた。
<シーン4/クリスマス目前〜小さな教会の礼拝堂/聖歌隊席>
SE(小鳥のさえずり〜教会の鐘の音)
カレン:「おはよう、エミル」
エミル:「おはよう、カレン」

早朝。
誰もいない礼拝堂で、僕たちは語り合った。

カレンの家は、南の町、トロンハイム。
お母さんと2人暮らしだという。
お母さんは、敬虔なクリスチャン。
カレンが18歳になるとすぐに聖歌隊に参加させた。
カレンも歌うことが好きだったから、喜んで小さな村々を回っているそうだ。

確かに、透き通ったカレンの歌声は、まるで、天使の讃美歌。
瞳をキラキラさせて話をするカレンにステンドグラスから朝の光が差し込む。
それはまるでオーロラのように、幻想的な光の色彩を作り出す。
僕は、朝のこの時間のために毎日を生きているような気持ちだった。
<シーン5/クリスマスイブ〜小さな教会の礼拝堂>
SE(教会の鐘の音〜ゴスペル〜)
エミル:クリスマスイブ。
その日、カレンは聖歌隊にいなかった。

風邪でもひいたのか。

違った。
カレンのいる聖歌隊は、恋愛禁止。
ましてや、カレンは未成年。
聖歌隊の皆も、神父さんも僕には何も教えてくれなかった。
真実を知ったのは、礼拝に来る人たちから。
聖歌隊から外されたカレンはひとり実家へ戻っていったという。

いや、待てよ。
確かカレンの家は、遠く離れたトロンハイム。
そんなところまで1人で帰れるわけがない。
僕はクリスマスミサも早々に、吹雪の外へ飛び出す。

まさか、まさか。
1人でトロンハイムへ?
この吹雪のなか、山越えを?
いったいどれだけ距離があるか知っているのか?
深い森やフィヨルドを抜けていかなきゃならないのに。

僕はカレンを追って、雪山へ入った。
行く手を阻むラーガ山脈の険しい峰。
視界は1メートル先も見えない。
氷点下の風は肌を刺し、息を吸うたびに肺が痛む。

カレンの足なら、まだそう遠くまでいけるはずはない。

スカンダ渓谷の入り口まできたとき、
針葉樹の大木の根元に白いかたまりを見つけた。
それは雪に埋もれたカレンの小さな体。
クリスマスツリーから落ちたオーナメントのように美しい顔にも雪が降り積もる。

「カレン!」

僕はカレンを抱き上げると、今来た道を戻っていった。
<シーン6/クリスマスの翌日〜教会の庭のベンチ>
SE(夜の環境音)
エミル:アルタに戻ったのは、イブが明けたクリスマスの未明。

教会の扉は閉ざされ、町は静まり返っている。

いつのまにか吹雪はおさまり、見上げると暗闇の隙間からオーロラが夜空を彩っている。

主人(あるじ)のいなくなったベンチは教会の庭に置かれていた。

僕は冷たくなったカレンを抱き、ベンチに座らせる。
BGM「インテリアドリーム」
エミル:ああ、カレン。寒かったろう。凍えただろう。

僕は、カレンの横に座って彼女を強く抱きしめる。
体温が、カレンの魂を温めていく。

ポラリスとカシオペアにはさまれて北斗七星の前で僕たちは・・・
神父:「アルタの町は静けさに包まれ、いつしかまた降り出した雪が
ノルディックベンチに佇む2人の上に、ゆっくり静かに降り積もっていきました」

– **ノルディックベンチのディテール** :「ノルディックベンチ」は北欧家具の特徴を象徴する作品で、以下のディテールが施されています。 
– **素材と質感**:北欧の厳しい自然環境に耐えるため、耐久性のあるオーク材やアッシュ材を使用。木目の美しさを最大限に活かし、自然な風合いを強調。 
– **デザイン**:背もたれと座面は緩やかなカーブを描き、人間工学に基づいた快適な座り心地を提供。無駄のないミニマルなデザインでありながら、装飾として雪の結晶や北極の星空をモチーフにした彫刻が施されている。 
– **仕上げ**:オイル仕上げで、木材の自然な温もりを引き立てる。北欧の冬の光を反射するような、柔らかな艶を持つ。 

このベンチには「永遠の愛を見守る」とされる伝説が込められており、特に冬のオーロラの下でその魅力が最大限に引き出されます。

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