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ボイスドラマの内容
登場人物
- 彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/最近ストレスで不眠症気味
- 彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ
Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/前編」
彼女: | それは夢だとわかっていた。 霧深い森の中を私は彷徨っている。 このところ、毎晩同じ夢を見る。 確か、ドリームキャッチャーをベッドの上にかけておいたはずだけど・・・。 |
彼女: | 「・・・はっ」 後輩のCAが私の肩に優しく触れる。 そうか。今日はデッドヘッド。ナイトフライトの機内だった・・・。 デッドヘッドというのは、業務外、移動の時間のこと。 後輩は音を立てないよう、静かに会釈をして通路を歩いていく。 そうね、私ったら制服を着たまま微睡むなんて・・・。 |
彼: | 「あのう・・・」 |
彼女: | 「はい?」 話しかけてきたのは、通路を挟んだ反対側のシートに座る紳士。 顔だけこちらに向けて、申し訳なさそうに口を開く。 |
彼: | 「もしかしたら、不眠症ですか?」 |
彼女: | 「え?」 |
彼: | 「いえ、不躾に話しかけたりしてすみません。 実は私、睡眠外来で働いているんです」 |
彼女: | 「お医者様、ですか?」 |
彼: | 「はい。小さなクリニックですが」 |
彼女: | 「どうして私が不眠症だと?」 |
彼: | 「微かな音でしたが、呼吸の乱れがありましたので」 |
彼女: | 「まあ、お恥ずかしい・・・」 |
彼: | 「いえいえ。すみません、つい職業病で」 |
彼女: | 「ふふ・・・。いいんです。その通りですもの」 |
彼: | 「機上の人だから、ストレスとかもいろいろあるのでしょうね」 |
彼女: | 「ええ、でもそれじゃ、プロとして恥ずかしいわ」 |
彼: | 「いいえ、大丈夫。今や日本人の20%が不眠に悩んでいますから」 |
彼女: | 「はあ」 |
彼: | 「ストレスだけじゃなく、ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよ」 |
彼女: | 「さすが、お詳しいですね」 |
彼: | 「あ、いや・・失礼しました。お疲れのところを長々と・・・」 |
彼女: | 「大丈夫です。勉強になりました」 |
彼: | 「またいつか、どこかでお会いしたら、この続きをお話ししましょう」 |
彼女: | 「はい、ありがとうございます」 |
彼: | 「こちらこそ」 |
彼女: | はにかみながら向き直った彼は、雑誌を開いて視線を落とした。 すっかり睡魔が消え去った私は、さきほどの夢を思い出していた。 あれはなんだったんだろう・・・ 首を傾げるそぶりをしながら、右側を見ると、 お医者様は雑誌を開いたまま、夢の世界の住人になっていた。 久しぶりにまとまった休みがとれた土曜日。 私はまっさきにインテリアショップに向かった。 不眠の原因がベッドかも、という彼の言葉が脳裏に焼きついていたからだ。 壁にディスプレイされた睡眠の雑学を読んでいると、 聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。 |
彼: | 「こんにちは」 |
彼女: | ドラマじゃあるまいし、こんな偶然ってあるのかしら。 そう、話しかけてきたのは、空の上で見かけたあの笑顔。 |
彼: | 「ベッドですか?」 |
彼女: | 「あ、はい。あなたは・・・?」 |
彼: | 「このコーナーで僕の論文を紹介してもらっているんですよ」 |
彼女: | 「まあ」 |
彼: | 「よかったら、この前の話の続き、いかがですか?ちょうど寝具の前だし」 |
彼女: | 「はい。よろこんで」 |
彼: | 「じゃあ、まずは重要なポイント。枕の高さについて・・・」 |
彼女: | 夢の中と同じ笑顔で、彼は寝姿の話とか、マットレスの構造の話とかを 丁寧に話し始める。 考えてみたら、最近夢でうなされることはなくなったような気がする。 あとは寝具を整えれば・・・ うふふ。 人生の1/3は睡眠時間。 1/3が快適なら、残りの2/3も、きっと素敵な時間になりそうね。 |