「Anniversary〜IROTTA CHIC/前編」 2024年3月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 彼女(21歳)・・・女子大学4年生。モダンダンス部に所属。自主講演を中心として幅広く活動中。ダンスと同時に声優の勉強も独学で始め将来の道に悩んでいる。誕生日は3月
  • 彼(21歳)・・・大学4年生。野生生物研究会。彼女とは彼女が通う女子大の大学祭で知り合った。月1回の野外観察と彼女の合宿が重なった。誕生日は彼女と同じく3月

Story〜「Anniversary〜IROTTA CHIC/前編」

<シーン1/コテージ>
SE(森の小鳥ー冬の鳥/シジュウカラやヤマガラなど)
SE(ドアを何度もノックする音)
彼女:鳥のさえずりしか聞こえない静かな森。
私たちのコテージ周辺に不審者出没の情報がとびこんできた。
うそでしょ・・・
冬眠から目覚めたクマじゃないの。
いや、そっちの方が怖いか。
私は、女子大の舞踊教育学コース4年生。
モダンダンス部の友だちと小旅行に来ている。
10月の自主公演、11月の大学祭と、大学生活最後の年を満喫した。
いまは卒業を来月に控えて友だちとの思い出作り。
こんなところに不審者?
私は震えながら、部屋の戸締りを確認する。
そういえば彼は?
確か、この近くでサークルの野外活動をしていたんじゃないかしら。
まさか、不審者って彼のことじゃ・・・
なわけないか。
私と同じ市内で理系の大学に通う、3年生。
彼と私はうちの大学祭で知り合った。
<シーン2/コテージ>
彼女:女子大の学祭名物、フランクフルト屋台。
私は給仕をしながらお客さんのリクエストでダンスを踊る。
なのに、そんな私には目もくれずに夢中でフランクフルトを食べ続ける彼。
その食べっぷりが面白くてじっと覗き込んでしまった。
彼は、
「僕の顔になにかついていますか?」
彼女:とつぶやき、その言葉もツボにはまって笑いが止まらなくなっちゃったんだ。
結局、笑い過ぎたお詫びに私から彼をお茶に誘い、それからたま〜に連絡するようになって今に至る。
その彼も野生生物研究会の活動でこの森に来ているはずだ。
といっても、今年の1月以来彼の顔は見ていない。
就職先の研修やら卒業論文やらで忙しく走り回っている。
こんなときなのに、彼と最後に会った日のことを思い出してしまう。
あれは・・・
初詣のあとに立ち寄ったインテリアショップ。奥に囲まれたコーナーへ彼が吸い込まれていった。
<シーン3/インテリアショップ(IROTTA CHICコーナー)>
彼:「ちょっと、こっち来てよ」
彼女:「なあに?」
彼:「なんか、このエリア、煌めいてないか」
彼女:「え?・・・わあ〜」
彼女:そこは白とピンクを基調にした、プリンセス系のお部屋。
シャビーシックなピンクで彩られた壁紙とラグマット。
ラメを散りばめた白いダイニング、ソファ、ロッキングチェア、ベッド。
彼女:「まるでお城に住んでいる、お姫様のお部屋みたい」
彼:「はは、さすが声優を目指しているだけあって、表現力が豊か」
彼女:「眠っている間に異世界召喚されて、こんなお部屋で目覚めたい」
彼:「出たな、異世界召喚アニメフェチ」
彼女:「だってやっぱり憧れちゃうもん」
彼:まあ、僕はこっちの部屋かな
彼女:「うわ、楽しそう」
彼:「この巨大なホワイトタイガーのぬいぐるみと一緒にカラフルなソファで寝転びたいな」
彼女:「ふふ、あなたらしい」
彼:「ゴリラとかバイクのオブジェもあるんだ」
彼女:「おもしろ〜い」
彼:「なんか、みんなキラキラしてるね」
彼女:「家具屋さんなのに楽しい」
彼:「お、この部屋もすごい」
彼女:「どれ?」
彼:「ほら」
彼女:「絵画?」
彼:「みたい」
彼女:「絵画だけど、全ての絵がキラキラしてる」
彼:「ホントだ」
彼女:「クリスタルかな」
彼:「しかも名画や風景から映画の1シーンまでいろんなのがある」
彼女:「うん」
彼:「さあ、あけてごらん」
彼女:「うん」
彼:「この映画って、好きだったんじゃない?」
彼女:「あ・・・」
彼女:私の目の前に現れたのは、『ティファニーで朝食を』のラストシーン。
黒いドレスのヘプバーンが早朝のニューヨークを歩いている。
しかも等身大のアート。
ドレスの部分にはラインストーンが散りばめられている。
<シーン4/コテージ>
SE(部屋の電話のコール音)
彼女:不躾に鳴り響くコール音。
私は束の間の現実逃避から、現実世界へ呼び戻された。
彼女:「もしもし・・・」
彼女:電話は一緒に来ているモダンダンス部の仲間。
なんと、不審者が館内にいるかもしれないと告げて電話を切った。
不安と緊張のボルテージは一気に最高潮に達する。
と、そのとき・・・
彼女:「うそっ!?」
彼女:

私は他人(ひと)から見たらおかしいほどに狼狽える。

ドアから一番離れたベッドに背中を押し付け、身構えた。

そこへ、友人の声で、

”早く開けて!”

”急いでここを出るの!”

という、焦って慌てた怒鳴り声が耳に飛び込んでくる。

け、警察!

そうだ、警察に電話しなきゃ。

”ねえ開けてよ!”

彼女:「待って、先に警察に電話するから」
”それよりここを出なきゃ!”
彼女:友人の緊迫した声に気圧されて、思わず扉を開ける。
SE(SE〜扉を開く音/と同時にクラッカーの音と歓声)
全員:「サプラ〜イズ!!」
彼女:「え?」
BGM♪インテリアドリーム
彼女:扉の向こうには、モダンダンス部の仲間たちが勢揃いしていた。
全員:「ハッピーバースデー!!」
彼女:「あ・・・」
BGM♪インテリアドリーム
彼女:すっかり忘れていた・・・
そうか、今日は私の誕生日・・・
彼:「誕生日おめでとう」
彼女:「え〜!?」
彼女:整列した仲間たちの後ろから現れたのは、ヘプバーン!
3か月前にインテリアショップで見たアートを抱えた彼だった。
彼女:「やだ・・・」
彼:「事情を話したら家具屋さんがここまで運んでくれたんだ」
彼女:「あ、ありがとう・・・」
彼:「ここから君のアパートまでは一緒にクルマで持っていこう」
彼女:「うん・・・」
彼:「新しい君の1年が最高の1年になりますように」
彼女:「もう・・・これ以上泣かせるようなこと言わないで」
彼女:頭の中が整理できないほど、あまりにドラマティックな演出で、
私の21歳のアニバーサリーが過ぎていった。
SE(拍手と歓声)
全員:「おめでとう!!」
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