「父の運動会〜食卓のバトンリレー」前編 2023年10月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘(8歳/16歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター
  • 父(51歳/59歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に

Story〜「父の運動会〜食卓のバトンリレー/前編」

<シーン1/娘8歳/父51歳>
娘:バトンを持った父が先頭集団を抜けて私の元へ走ってくる。
汗をいっぱいかきながら、満面の笑みで私に手渡す。
父:「あとはたのんだぞ!がんばれ!」
娘:運動会の親子リレー。
43歳年が離れた父は、友達のお父さんと比べてもかなり目立っていた。
出場するお父さんたちの中で多分一番年長。
だけど、運動神経は誰にも負けていない。
そんな私たちを見て、観覧席から母が一生懸命手を振る。
8歳の私と51歳の父。
あのときの父の姿は、記憶の中の宝物だ。
<シーン2/娘16歳/父59歳>
娘:父が会社からのリタイアを決めたのは、私が高校へ進学した年。
朝早く私の弁当を作りながら
若手へバトンを渡すんだと喜しそうに笑った。
母は仕事で海外勤務となり、父と2人だけの生活。
私はというと、中学から始めた陸上トラック競技に夢中だった。
朝練から放課後の部活まで、走っている時間が一日のうち一番長い。
父:「今度のリレーはアンカーなんだって?」
娘:「うん」
父:「じゃあ、食事も気をつけないとな。パンをやめてご飯にするか。
炭水化物が重要なんだろう」
娘:「それは長距離走でしょ。私は短距離。
スプリンターだから今まで通り、パンにヨーグルト、グラノーラでいいよ」
父:「そうか。お父さん、会社やめたら時間がいっぱいできるから一緒に朝走るかな」
娘:「やめてよ。年を考えて。
それにさ、毎日私に付き合ってこんな朝早くに起きなくていいから」
父:「そんなことしたら、お前が栄養とれないじゃないか」
娘:「大丈夫よ。コンビニでも、カロリー考えて食べ物選ぶから」
父:「そうかあ、それなら明日から朝寝坊するかな・・・」
娘:そう言いながら、きっと明日の朝もキッチンに立っているのだろう。
私は食卓に並べられていく朝食を眺めながら父の後ろ姿を見つめる。
父:「そうだ、忘れていたけど、今日部活のあとで
家具屋さんに付き合ってくれないか」
娘:「いいけど・・・、家具買うの?」
父:「実はな、海外にいるお母さんから、
うちの食卓を送ってほしいって言われてるんだ」
娘:「なにそれ?
ママが住んでるところ、家具つきのコンドミニアムじゃなかった?」
父:「どうも備え付けの食卓が気に入らないらしい」
娘:「そんなぁ」
父:「ああ、だから最初がまんしてたらしいんだけど、
住んでるうちに、どうしてもこの食卓を送ってほしくなったんだって」
娘:「おんなじような食卓、海外のインテリアショップにもあるでしょ」
父:「この食卓じゃなきゃだめだそうだ」
娘:「えー大変だよ。送料だって馬鹿にならないじゃん」
父:「そりゃ、そうだけど」
娘:「でいつ送るの?」
父:「もし今日、新しい食卓を決めたら、入れ替わりにこれを送るよ」
娘:「えええええ!同じ食卓を買って送るんじゃないんだ」
父:「お母さんはいま使ってる食卓がいいんだってさ。
お前やお父さんの温もりがしみこんでるからな」
娘:「やだ、温もりじゃなく、味噌汁やおかずをこぼした跡じゃない?」
父:「はは、そうかもな」
娘:「ママ、ホームシックになってるのかな」
父:「きっとそうだ」
娘:「パパ、おまたせ」
父:「ああ、きたか」
娘:「いい食卓あった?」
父:「いいのはいっぱいあるけど、アンカーはお前だからな」
娘:「なぁにそれ?」
父:「これはね、食卓という温もりのバトンリレーなんだよ」
娘:「ぬくもりのバトン?」
父:「食卓は家族が集う場所だから、
年月とともに家族の温もりがしみこんでいくだろ」
娘:「うん」
父:「お母さんは、きっとその温もりがほしいんだよ」
娘:「そう・・・」
父:「お前に選んでほしいのは、温もりをつなぐバトンなんだ」
娘:「バトン・・・」
父:「いままでうちで使ってた食卓は、家族3人で座るのにちょうどいい
コンパクトなサイズだったから・・・」
娘:「まあこうしていろんな食卓をみると確かにコンパクトだったかな」
父:「今度は、いまより少しだけ大きな6人がけの食卓にしようか」
娘:「大きすぎない?」
父:「楕円の食卓にすれば部屋も広く感じるからな」
娘:「だってママ、しばらく海外から戻らないんだよ」
父:「いいんだ。いつ家族が増えたっていいようにしておかないと」
娘:「なあに言ってるの?私まだ16歳だって」
父:「ああ、そうだったな」
父娘:(笑)
娘:ぬくもりのリレー。
それは8歳の私に父が渡してくれた笑顔のバトンから始まった。
これからもずうっと、バトンを渡し続けていけますように。
パパ、いつまでも元気でいてね。
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