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ボイスドラマの内容
登場人物
- 娘(8歳/25歳)・・・インテリアコーディネーター/セレクトショップで新ブランド立上げの責任者に抜擢されている
- 父(52歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカー社長/かつては町工場の工場長/少し強面だが心根は優しくて娘思い
Story〜「変わらないもの/父のソファ/前編」
<シーン1/自宅リビングにて(娘8歳/父52歳)> | |
父: | 「よいしょっと」 |
娘: | 夕食のあと、キッチンで洗い物をする母に背を向け、 リビングのソファにどっしりと座る父 |
父: | 「ニュースはまだかな・・・」 |
娘: | 3人がけのソファは、身長180cmの父が座るととても小さく見える。 小柄な私が一人で座ると、背もたれが視界を遮り巨大な壁となる。 ”なんて大きいソファなんだろう”っていつも感じていたのに。 いつものことだけど、いつも不思議だった |
父: | 「お、今日はクイズか!」 |
娘: | 父はTVを見るのが大好き。 仕事から帰ってきてみんなでご飯を食べた後には、 いつものソファで夜遅くまでTVを見る。 ニュース番組、バラエティ番組、スポーツ番組、何でも見て、 何にでも大きな声で答えていた |
父: | 「鹿児島県で2番目に大きい島・・・2番目に大きい島は・・・ 屋久島!」 |
※テレビの中の音「ピンポンピンポン!」 | |
娘: | 私の方を振り返って口元が綻ぶ。 そして、いつものように、 |
父: | 「こっちにおいで。一緒に見よう」 |
娘: | 私は満面の笑みで父の隣へ飛び込み、並んでテレビを見る。 それは私にとって、至福のひととき。 リビングに響き渡る父の声は、家族を照らす灯りだった |
父: | 「明日、みんなでまた家具屋さんに行こうか」 |
娘: | そう言ったあと、気がつくと横から父の寝息が聞こえてくる。 振り向けば、キッチンの母は人差し指を口にあてて笑っている。 この時間が私は一番好きだった |
<シーン2/インテリアショップにて(娘8歳/父52歳)> | |
娘: | 私がインテリアコーディネーターになったのは、 父も母もインテリアが大好きだったから。 父は時間があると私を家具屋さんへ連れていった |
娘: | 「わあ」 |
父: | 「いろんな家具があって楽しいだろう」 |
娘: | 「うん」 |
父: | 「じゃあ座って目を瞑って。 その家具たちに囲まれた暮らしを想像してごらん」 |
娘: | 「う〜んと・・・」 |
父: | 「そばにパパやママやお姉ちゃん、お兄ちゃんは見える?」 |
娘: | 「うん、見える」 |
父: | 「みんな、笑ってるかい?」 |
娘: | 「笑ってる」 |
父: | 「じゃあ、その家具はいい家具だ」 |
娘: | 「そっかぁ」 |
父: | 「やっぱりおまえは見る目があるなあ(笑)」 |
娘: | その思いは(インテリアコーディネーターになった)今でも変わらない。 自然と笑顔が集まってくる家具たちを、私は提案し続ける。 かつて父は町工場を経営し、妻と子供3人を守るために毎日必死に働いた。 毎日疲れていただろうに、週末は必ず私たちをドライブに連れていく。 勉強しろと言われたことは一度もない。 唯一厳しかったのは「礼儀」と「言葉」。 それもこれも、社会人になったいま、私をかたちづくる素養となっている |
<シーン3/自宅にて(娘25歳/父69歳)> | |
娘: | 「ただいま」 |
父: | 「おかえり。遅かったな」 |
娘: | 「いま、セレクトショップの新ブランド立上げで忙しいのよ」 |
父: | 「ごはんは?」 |
娘: | 「食べてきた」 |
父: | 「そうか、じゃあとりあえずソファで休みなさい」 |
娘: | 「うふふ・・」 |
父: | 「なんだ?」 |
娘: | 「変わらないなあ、と思って」 |
父: | 「なにが?」 |
娘: | 「ソファも。パパも」 |
父: | 「なぁに言ってるんだ」 |
娘: | つい最近、ソファの皮を新しく張り替えた。 新しい皮の匂いがするソファの真ん中に、今日も父はどっしりと座る。 その横で、私が父にもたれ気味に座る。 社会に出て目まぐるしく変わる毎日のなかで 変わらない日々の幸せが、そこにはある |