「変わらないもの/父のソファ」後編 2023年5月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 母(40歳/65歳)・・・主婦/妻とは学生時代、東京で出会い、名古屋で結ばれた
  • 父(44歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった

Story〜「変わらないもの/父のソファ/後編」

<シーン1/自宅キッチン-リビングにて(母65歳/父69歳)>
父:「もう、こんな時間か・・・あの子、まだ帰らないのか」
母:「ええ。なんでも最近新しくオープンするセレクトショップで
新ブランドの開発をまかされたそうよ」
父:「ああ、そういえば、そんなこと言ってたっけな」
母:「さっきメールで、夕ご飯もいらないって」
父:「まったく、いくつになっても心配ばっかりかけて」
母:「しようがないでしょ。あなたの娘(こ)だもの」
父:娘がインテリアコーディネーターになった。
それは、私も妻も家具が大好きだったからかもしれない。
私のお気に入りは、3人がけのこのソファ。
大き過ぎもせず、小さくもなく、ちょうどいいサイズと
ふかふかの座り心地が私の居場所になっている。
ソファが我が家にやってきたのは、25年前だった
<シーン2/インテリアショップにて(母40歳/父44歳)>
父:「眠ったみたいだな」
母:「あなたが大声ださなきゃ、すぐ寝てくれるわ」
父:生まれたばかりの娘をベビーカーに乗せて、
家具屋の店内をゆっくりと見てまわる。
お目当ては3人並んで寝られる大きなベッド。
寝室の大きさも考えながら、決めるのに難航していた。
そのとき、私の足がとまったのは・・・
母:「ソファ?」
父:「うん、大き過ぎず、小さくもない。
私が真ん中に座って、両横にこの娘と息子が座ってくれたら最高だろうなあ」
母:「あら、じゃあ私と学校行ってるお姉ちゃんは?」
父:「同じ柄のひとりがけのソファが2つ、あればいいじゃないか」
母:「大家族ね」
父:「ああ、大家族で毎日が楽しくなるぞ」
母:「この娘と3人で寝られるベッドも忘れずにね」
父:こうして、一目惚れしたソファは、家族の中心となった。
末娘を抱いて真ん中に座る私と、両脇に座る長男長女。
もっちりとした座り心地のソファーは、私たち親子をやさしく包み込んでくれた。
それはまるで家族の思いを抱きしめるように。
私たちの姿を見て妻がニッコリ笑う。
ソファーを中心にして、リビングに笑顔の灯りが灯された
<シーン3/自宅にて(妻65歳/父69歳)>
母:「帰ってきたみたいよ」
父:「まったく」
母:「優しくしてあげてね」
父:「わかってる」
母:「座ったら?」
父:え?
あ、そうか・・・
私は知らず知らず、リビングで立ったままソワソワしていたようだ。
私はようやくソファに腰をおろし、おもむろにテレビをつける。
テレビも、つけていなかったのだな・・・
ふふ・・・。
自分でも気が付かないくらい、娘が心配だったらしい
SE(リビングのドアをあける音)
父:「おかえり」
娘は必ずリビングに顔を出してから自分の部屋へ行く。
いつも通り・・・に見えるけど、ちょっと、疲れた顔・・・だな。
仕方ない。いろいろストレスもあるだろうから。
私は、トーンを落として声をかける。

「とりあえずソファで休みなさい」

私の声を聴いた娘は、とたんに表情が緩んだ。
笑うとエクボが現れるのは、いまも昔も変わらない。
キッチンから妻が割り込んでくる。
母:「ホント、変わらないわね」
父:「なんだい」
母:「ソファの真ん中と右端を親娘で占領すること」
父:「いいじゃないか。親娘なんだから」
父:娘が生まれたのは、私がまだ町工場を経営していた、44歳のとき。
仕事もちょうど転換期で慌ただしい日々だったが、
夕食後は時間を作り、このソファに座って娘といろんな話をしてきた。
挨拶の仕方、テーブルマナー、言葉遣い、礼儀、作法。
幼いころは泣いたり反抗したりもされたが、
インテリアコーディネーターになった今は、きっと理解してくれているだろう。
ふと気がつけば、上品な笑顔で私をじっと見つめている
父:「なーににやけてるんだ」
娘:「なーんでもないよ~(笑)」
父:まるで子どものように顔をほころばせて私にもたれてくる娘。
妻と娘と私。家にはいないが、長男長女。
リビングを笑顔で包む家族の幸せに、今日も灯りが灯っていく
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