「変わらないもの/父のソファ」前編 2023年5月

ボイスドラマを聴く

ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘(8歳/25歳)・・・インテリアコーディネーター/セレクトショップで新ブランド立上げの責任者に抜擢されている
  • 父(52歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカー社長/かつては町工場の工場長/少し強面だが心根は優しくて娘思い

Story〜「変わらないもの/父のソファ/前編」

<シーン1/自宅リビングにて(娘8歳/父52歳)>
父:「よいしょっと」
娘:夕食のあと、キッチンで洗い物をする母に背を向け、
リビングのソファにどっしりと座る父
父:「ニュースはまだかな・・・」
娘:3人がけのソファは、身長180cmの父が座るととても小さく見える。
小柄な私が一人で座ると、背もたれが視界を遮り巨大な壁となる。
”なんて大きいソファなんだろう”っていつも感じていたのに。
いつものことだけど、いつも不思議だった
父:「お、今日はクイズか!」
娘:父はTVを見るのが大好き。
仕事から帰ってきてみんなでご飯を食べた後には、
いつものソファで夜遅くまでTVを見る。
ニュース番組、バラエティ番組、スポーツ番組、何でも見て、
何にでも大きな声で答えていた
父:「鹿児島県で2番目に大きい島・・・2番目に大きい島は・・・
屋久島!」
※テレビの中の音「ピンポンピンポン!」
娘:私の方を振り返って口元が綻ぶ。
そして、いつものように、
父:「こっちにおいで。一緒に見よう」
娘:

私は満面の笑みで父の隣へ飛び込み、並んでテレビを見る。

それは私にとって、至福のひととき。

リビングに響き渡る父の声は、家族を照らす灯りだった
父:「明日、みんなでまた家具屋さんに行こうか」
娘:そう言ったあと、気がつくと横から父の寝息が聞こえてくる。
振り向けば、キッチンの母は人差し指を口にあてて笑っている。
この時間が私は一番好きだった
<シーン2/インテリアショップにて(娘8歳/父52歳)>
娘:私がインテリアコーディネーターになったのは、
父も母もインテリアが大好きだったから。
父は時間があると私を家具屋さんへ連れていった
娘:「わあ」
父:「いろんな家具があって楽しいだろう」
娘:「うん」
父:「じゃあ座って目を瞑って。
その家具たちに囲まれた暮らしを想像してごらん」
娘:「う〜んと・・・」
父:「そばにパパやママやお姉ちゃん、お兄ちゃんは見える?」
娘:「うん、見える」
父:「みんな、笑ってるかい?」
娘:「笑ってる」
父:「じゃあ、その家具はいい家具だ」
娘:「そっかぁ」
父:「やっぱりおまえは見る目があるなあ(笑)」
娘:その思いは(インテリアコーディネーターになった)今でも変わらない。
自然と笑顔が集まってくる家具たちを、私は提案し続ける。
かつて父は町工場を経営し、妻と子供3人を守るために毎日必死に働いた。
毎日疲れていただろうに、週末は必ず私たちをドライブに連れていく。
勉強しろと言われたことは一度もない。
唯一厳しかったのは「礼儀」と「言葉」。
それもこれも、社会人になったいま、私をかたちづくる素養となっている
<シーン3/自宅にて(娘25歳/父69歳)>
娘:「ただいま」
父:「おかえり。遅かったな」
娘:「いま、セレクトショップの新ブランド立上げで忙しいのよ」
父:「ごはんは?」
娘:「食べてきた」
父:「そうか、じゃあとりあえずソファで休みなさい」
娘:「うふふ・・」
父:「なんだ?」
娘:「変わらないなあ、と思って」
父:「なにが?」
娘:「ソファも。パパも」
父:「なぁに言ってるんだ」
娘:つい最近、ソファの皮を新しく張り替えた。
新しい皮の匂いがするソファの真ん中に、今日も父はどっしりと座る。
その横で、私が父にもたれ気味に座る。
社会に出て目まぐるしく変わる毎日のなかで
変わらない日々の幸せが、そこにはある
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!