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ボイスドラマの内容
登場人物
- 彼女/城田(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。スポーツジムで働きながらミュージカル女優を目指している
- 彼/一ノ瀬(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。コンビニでバイトしながら演劇を続ける劇団員。城田とは同級生で友達以上恋人未満
Story〜「ダンサー・イン・ザ・ライフ/新生活/前編」
彼: | 「なあ、アイス食べて帰らないか?」 |
彼女: | 舞台メイクを残したまま彼がアイスクリームショップへかけていく。 高校の部活帰りにいつも寄り道していたのは、私と、私の親友、そして、彼。 演劇部の仲良し3人組だった。 ただ、今日はたまたま彼と私の2人だけ。 |
彼: | 「なあ、今日は見にいかないのか?」 |
彼女: | 「・・・なに?」 |
彼: | 「大道具だよ、というか・・・家具だけど」 |
彼女: | 私たちの芝居は、朗読劇が多かったから、基本は立ちっぱなし。 でも今稽古してるのは、舞台に2つの椅子と1つの机をおいて 男女の掛け合いがすすんでいく、という実験的な即興劇だった。 私はいつも背景係だったから、 画材屋さんと家具屋さんはもう顔馴染み。 アイスを食べ終えた私たちは、私の行きつけ、アウトレット家具のお店へ。 店内のPOPに描かれた「新生活応援」の文字。 私、卒業したら一人暮らしして、もっとお芝居の勉強したいな。 |
彼女: | 「あ、こんにちは」 優しそうな店長がいつもの笑顔で迎えてくれる。 |
彼: | 「へえ、お前も、ちゃんと挨拶できるんだな」 |
彼女: | 「え・・・」 |
彼: | 「だ、だってお前いつも・・・」 |
彼女: | 「なに」 |
彼: | 「い、いや、なんでもない・・・」 |
彼女: | そう。 私って、演劇部とは思えないほど、内向的で、内気な少女。 でも、舞台に上がれば、違う自分になれる・・・。 そう思ってがんばってるんだけど、そんなに簡単じゃないんだな。 |
彼: | 「そういえば知ってるか? 今度の舞台が終わったら、次の朗読劇、『Little Prince』だって」 |
彼女: | 「Little Prince?」 |
彼: | 「知らないのか、星の王子さま」 |
彼女: | 「名前は聞いたことあるけど・・・」 やっぱりだめだなあ、私。明日、図書館行って借りてこよう。 |
彼: | 「お、この椅子いいじゃん。座り心地いいし」 |
彼女: | 彼が選んだのは、ちょっと派手目のウィンザーチェア。 ホントはもっとシンプルな椅子の方がいいんじゃないかしら。 |
彼: | 「よし、これにしよう」 とまどいの表情の私を店員さんが気遣ってくれる。 私は苦笑いで応えながら、チェアを抱える彼のあとをついていった。 |
彼女: | 即興劇は大成功で終わった。 舞台の上、ウィンザーチェアの前に立つ彼は、喝采に笑顔で応える。 背景係の私は、舞台袖から彼の後ろ姿を見ていた。 |
彼: | 「みんなお疲れ〜」 |
彼女: | おどけて舞台裏へ戻ってきた彼は、 袖で緞帳を操作していた私の元へ近寄ってくる。 |
彼: | 「なあ、オマエ。次の朗読劇、主役狙ってみろよ」 |
彼女: | 「え?」 |
彼: | 「たいせつなものは目に見えない」 |
彼女: | 「あ、それ・・・」 |
彼: | 「ああ。この言葉、なんとなくわかってきたような気がするんだ」 |
彼女: | 「でも・・・」 |
彼: | 「目の前に見えているものだけが真実じゃない」 |
彼女: | 「・・・」 |
彼: | 「知ってるんだぞ、いつも図書館で演劇の本読んでること」 |
彼女: | 「あ・・・」 |
彼: | 「いつも背景係で舞台を支えてくれているお前だけど、 見えている姿だけがお前じゃないんだろ」 |
彼女: | 「・・・」 |
彼: | 「それに、オマエのセリフ、いっぺんちゃんときいてみたいんだ」 |
彼女: | 「え・・・」 |
彼: | 「あ、いや、違う違う。誤解するなよ。 オレはただ、いろんな人のいろんな表現を見てみたいだけだから」 |
彼女: | ふふ。なんか、焦って饒舌になった彼の方が、本当の彼らしい。 目には見えないたいせつなもの、私も探してみようかな。 |