「家族の食卓/もうひとつの物語/前編」 2024年11月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘:紅葉(くれは)/専門学校生(20歳)・・・真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた
  • 父(59歳)・・・インテリアショップのオーナー兼家具職人。無口で職人気質、細やかな技術と頑固さを持ち合わせるが、家族への愛情は深い。言葉では多くを語らないが、家具を通じて娘に自分の気持ちを伝えようとしている。娘が家業を継がずに上京することを不安に感じ、心配しながらも彼女の夢を応援したいという気持ちを隠している

Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語/前編」

<シーン1/20歳の食卓>
SE(食卓の環境音)
父:「声優・・?
そんなフワフワした職業じゃなくて、まじめに将来を考えなさい」
娘:「別にうわついてなんかいないもん!
なんにも知らないくせに」
娘:売り言葉に買い言葉。
喧嘩なんて、したくもないのに・・
 
お父さんなんて、大っ嫌い。
父:「おまえには、いずれうちの家業も継いでもらわないと」
娘:「継がないから。
私、家具なんて興味ない」
父:「なんだと」
娘:お父さんったら、言ってることが、まるっきり昭和。
タイムマシンに乗って1970年代に戻ったみたい。
って、生まれる前の時代なんて知らんけど。
父:「大学を卒業したら家の手伝いを・・」
娘:「大学卒業したら東京へ行くの」
父:「と、東京!?」
娘:「卒業後は1人暮らしするって、ずうっと言ってるじゃない」
父:「東京なんて聞いてないぞ」
娘:「東京じゃないと、ちゃんとした声優事務所なんてないもん」
父:「母さんは知ってるのか?」
娘:「お母さんにはもう話したから」
父:「なに・・?」
娘:「賛成してくれたもん。
お父さんだけだよ。

そんな古臭いこと言って反対してるのは・・
父:「うるさい・・」
娘:怒りの感情は6秒で収まるっていうけれど、
お父さんのテンションもだんだん下がっていく。
 
結局、私の希望は認められ、晴れて春から1人暮らしとなった。
<シーン2/東京〜アパート探し>
SE(東京の雑踏)
娘:「お父さん、
何回も言ってるけど、お部屋くらい自分で探せるって」
父:「ばか言うな。
なにも知らない田舎者がアパート探そうと思ったって
不動産屋にいいように騙されるだけだ」
娘:「ちょっと、それ、不動産屋さんで言うせりふ?」

少し困ったような表情を見せたあと、
不動産屋さんは手際よく、いくつか部屋を見せてくれた。
これが、内見、ってやつ?
SE(鍵を開錠する音)
父:「ここはだめだ。
リビングが南向きじゃないと、陽も当たらないし、
電気代もかかるからだめだ」
娘:このご予算では、これ以上のお部屋はちょっと・・
と言って、不動産屋さんが口籠る。
 
結局、4件目の内見でやっと、少しだけ明るい部屋に出会った。
とは言っても、電気が通っていないと、ほんのり暗い。
私は、薄暗い部屋の真ん中に立って、あたりを見回す。
娘:「ねえ、お父さん。
お部屋って、な〜んにもないと、
こんなに暗くって、寒いんだ」
父:「ああ、そうだ。
だから、どんな部屋にも、まず食卓を置くんだよ」
娘:「こんな狭い部屋に食卓なんて置いたら、よけい狭くなっちゃう」
父:「狭くなるんじゃない。あったかくなるんだよ」
娘:「え・・」
父:「別に大きな食卓を置け、って言ってるんじゃない。
2人用でも、木の香りがして、優しい食卓にすれば
ここより5度はあたたかくなるぞ」
娘:優しい食卓?
お父さんらしい表現だな。
だけど、私にもわかる。

うちは大家族だったから大きな6人用の食卓。
そこはいつも笑顔と、美味しい香りが溢れていた。

笑い声が飛び交う、暖かい場所。
考えたら、ベランダに面した南向きのリビングより
食卓の方があたたかかった気がする。
父:「まあ、あとはお前次第だ。
無理せずにがんばりなさい。その・・・なんだ・・」
娘:「声優?」
父:「ああ・・。
一生懸命やって、だめだったら戻ってくればいい」
娘:「また、昭和の言い方して」
父:「しょうがないだろ。昭和の人間なんだから・・」
娘:「ねえ、お父さん」
父:「どうした?」
娘:「この部屋に合う食卓、選んでくれる?」
BGM「インテリアドリーム」
父:「え・・
あ・・わかった。
お前に似合う食卓を選んでやるよ」
娘:「ありがとう」
父:「あったかい部屋にするんだぞ」
娘:「ちゃんと自炊して規則正しい生活を送ること」
父:「そ、そんなゴージャお父さんが選ぶ、私の食卓。
実物を見なくても、なんとなくわかる。

木の香りが優しくて、
ずうっと座っていたくなる食卓。

目を閉じれば、お父さんやお母さんの笑顔が浮かんでくる食卓。
ほら、笑い声まで聞こえてくる。

夢をかなえるのに一番必要なのは、
やっぱりお父さんの不器用な応援だな。

もう一度言うね。

ありがとう、お父さん。
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