「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具」前編 2023年4月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている
  • 父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった

Story〜「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具/前編」

娘:「おつかれさまでしたぁ!」
父:娘がバイト先のコンビニを出たのは、午後7時10分。
慌てて走り出そうとする娘を私が制する。
娘:「あれ?お父さん!?なんで!?」
父:疑問符を連発する娘に静かに声をかける。
父:「明日、大事な声優オーディションなんだろ?」
娘:「うん・・・え、それでわざわざ東京まで来てくれたの!?」
父:「いや、たまたま東京のお客さんと打合せだったんだよ」
娘:「あ、そう・・・」
父:「えっと、あ〜実は、ちょっと、軽く弁当作って持ってきたんだ」
娘:「え、うそ?」
父:「父さんの手作りだから美味くはないけど。
よかったらで一緒に・・・」
娘:「私、今日は早く帰って発声練習とルーティンの課題をこなしておかないと」
父:「そうか、そうだったな、じゃあ、もう帰るから。父さんも明日仕事早いからな」
娘:「そんな・・・」
父:「なあ、あんまり生き急ぐんじゃないぞ。
  たまには歩みを止めて、深呼吸しなさい」
娘:「わかってる・・・」
父:「明日がんばってな」
娘:「うん・・・」
父:娘は私の顔をチラリと見てからアパートへ向かった。
私は反対方向へ歩き出す。
さて、このあとはどこか適当な居酒屋で夕食を摂るか・・・
 
娘が名古屋を出て東京で一人暮らしを始めたのは6年前。
あのときの娘と私は、一緒に家具屋へ行くほど距離が近かった。
娘:「お父さん、口だししちゃいやだよ。私が選ぶんだから」
父:「わかってる」
父:私の仕事は、家具職人。
だから家の中は、私の手による、まさに一点ものの家具に囲まれていた。
食卓も、箪笥も、学習机も、ベッドも、すべて木の家具だった。
娘からはよく、どうして木の家具しかないの、って訊かれたっけ。
それは、匠の心と木の温もり。
むかし、飛騨の匠たちが都へ呼ばれて、宮殿や寺院を建立したときも
きっと木の温もりを感じながらノミをふるっていたに違いない。
娘は自分の部屋にどんな家具を選ぶのだろう。
インテリアショップで楽しそうに見てまわる、娘の笑顔。
いつまでもこの笑顔を忘れずにいてほしい。
娘:「選び終わった」
父:「早いなあ」
娘:「だって、小さな部屋だもん。そんなに家具必要ない」
父:娘の選んだ家具を見て、思わず息を呑んだ。
いや、まあ、当たり前と言えば当たり前か・・・。
食卓、ソファ、ベッド、デスク。そのすべてが木の家具。
手触りも滑らかで柔らかく、デザインは真っ白だ。
まるで声優になりたい、という夢への挑戦を表現するかのように。
娘:「どうかな・・・」
父:「い、いいんじゃないか。全部木の家具・・・なんだな」
娘:「うちの家具だって、みんな木じゃない」
父:「ああ」
娘:「お父さん、いつも木には”温もり”があるって言ってたでしょ」
父:「うん」
娘:「だから、新しい生活をはじめるときも
寂しくないように、温かくて優しい木の家具にするんだ」
父:こうして、木の温もりに包まれた娘の新生活がスタートした。
あれからもう、6年になるのだな・・・
娘はコンビニでアルバイトしながら、声優を目指して日夜頑張っている。
娘:「おとうさん」
父:「あ、どうしたんだ?バイト先にわすれものか?」
娘:「ううん。
やっぱり・・・一緒にごはん食べない?」
父:「ん?」
娘:「久しぶりにおとうさんのまずい料理食べたくなって(笑)」
父:「そうか・・・(笑)」
父:「あ、なあ、知ってるか。
木の家具って、釘とかビスとか冷たい金属は表面に見えないだろ?」
娘:「なあに?とつぜん」
父:「だから、日常のストレスを和らげて、安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」
娘:「そっか。私、気づかないうちに、温もりに包まれていたんだ」
父:「おまえも、これから仕事がどんどん忙しくなっていって、
息つく暇もなくなって、心に余裕がなくなっていっても、
  温もりを忘れずにいるんだよ」
娘:「うん」
父:「心のあったかい声優になれるといいな」
娘:「おとうさん、実はね、
  私が目指してるのは、・・・”匠”なんだ」
父:「え?」
娘:「おとうさんが思ってるような、可愛いだけの声の声優じゃなくて」
父:「そんなこと思ってないけど」
娘:「さりげなくやっていることの一つ一つが高度で緻密、しかも的確。
 納得できるクオリティに仕上げるまでとことん探求する。
一切の妥協も許さない」
父:「ああ・・・」
娘:「なりたいのは、そんな声優。
それって・・・」
父:「”匠”だな」
娘:「お父さん、やっぱりわかってる」
父娘:(笑い合う)
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