「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具」後編 2023年4月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている
  • 父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった

Story〜「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具/後編」

娘:ステージに立つ7名のファイナリストたち。
その中に立つ私は、ゆっくりと目を閉じる。
やがて歓声とドラムロールの音が、私の耳からすうっと消えていった。

私の頭の中に蘇ってきたのは、幼い日の父の背中。
父:「いいかい、大きくなっても、温もりを忘れちゃいけないよ」
娘:父は家具職人。
幼い私をよく自分の工房へ連れていってくれた。
木目もあざやかに、磨かれた木材が所狭しと並ぶ小さな工房。
父は、工具や木工機械で私が怪我をしないよう、
背中越しに見ているよう言い含めて、いつも私を気遣った。
ある日、1枚の白木を手にとった父は私を手招きして、
父:「ほら、この木をさわってごらん」
娘:それは、家具に生まれ変わる前の白木(しらき)。
  無垢の清らかな香りが漂ってくる。
父:「あったかいだろう」
娘:そこには、スチールやプラスチックをさわったときとは全然違う
やわらかくてあったかい感触があった。
父:「木の温もり、っていうんだよ」
娘:「木の温もり・・・」
父:「木は私たち人間と同じで、呼吸しているんだ。
だから木には体温がある。
この木で作る家具にも、そのまま温もりが残るんだよ」
娘:確かに父が作る木の家具には、冷たい感触はまったくなかった。
学校で辛いことがあっても、家に帰って木の家具に囲まれていると
冷えた心がほんわり暖かく溶けていくような・・・。
父:「この椅子を見てごらん」
娘:それは背もたれの曲線が美しい木製のアームチェア。
左右の肘掛けにシンメトリーに浮かび上がる木目を見ていて思わず、

「きれい・・・」

とつぶやいた。
父は顔をほころばせて、
父:「そうだろう。
これは”匠”が作った椅子だから」
娘:「たくみ?」
父:「ああ、たくみさ。
  むかーしむかしに飛騨から都へ送られてお寺とかお城を作った職人だよ」
娘:「へえ〜」
父:「座ってごらん」
娘:「はい」

座った瞬間、木の温もりに包まれる感じがして、
 心がふわっと軽くなっていった。
父:「気持ちいいだろう?」
娘:「うん・・・」
父:「匠が作る家具はね、毎日のストレスを和らげて、
安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」
娘:「ふうん」
父:「だから、おまえ自身も、いつだって温もりをなくしちゃいけないよ」
娘:「わかった」
娘:私の方へ振り返ったまま、満足気に微笑む父の笑顔と背中のあたたかさ。
今でも鮮明に覚えている。
東京で一人暮らしを始めるときに選んだのも、すべて木の家具たち。

あ、そうだった。気づかないうちに、私、温もりに包まれていたんだ。
娘:父と家具たちを思い出しながら
自分でも不思議なほど落ち着いて、私はゆっくり目をあけた。
ドラムロールが途切れた次の瞬間、
私の名前を呼ぶ大きな声が、耳に飛び込んでくる。
嬉し泣きの声は、歓声と拍手があっという間にかき消していった。
娘:壇上でトロフィーを手にした私が顔をあげると・・・
客席の一番後ろには父の姿があった。
笑っているような、でも泣いているようにも見える表情で
大きく手を叩く父。
昨日名古屋へ帰るって言ってたのに・・・

おとうさん、私、おとうさんのような匠になりたい。
一切妥協せず自分の技能を信じて誇りに思う、職人のような声優。

大丈夫。私、できるよね。
匠に、なる。
だって、私はおとうさんの子どもだから。
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