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ボイスドラマの内容
登場人物
- 男性(25歳)・・・大手の建設設計会社で働くエンジニア。働きながら将来的にはインテリアデザイナーを目指して勉強している。12月の声を聞いた頃、本社東京への転勤の話が持ち上がる
- 女性(26歳)・・・ハウスメーカーで自社物件のインテリアコーディネーターをしている。海外研修をしたくて入社した当初から人事部に志望を出していた。来春のLA支社開設に伴い、支社専属コーディネーターの候補として自分の名前があがっていた
Story〜「ノルディックベンチ/前編」
<シーン1/最悪の出会い(1年前)> | |
SE | (展示会の環境音/BGMはクリスマスソング) |
女性: | 「正直に言わせてもらいますけど、この家具。 北欧風のダイニングってテーマに全然合ってないですよね。 まず、シルエットが重すぎる。 北欧家具の魅力って、シンプルで軽やかなラインと、 視覚的にも空間的にも“抜け感”を生むデザインにあるんです。 これじゃ、空間全体が圧迫されてしまう」 |
男性: | インテリアショップのワークショップ。 出品者同士で語り合うオフ会でいきなりの先制パンチ。 彼女、確か、ハウスメーカーのインテリアコーディネーターだったよな。 |
女性: | 「素材のチョイスも疑問ね。 北欧スタイルは、オークやアッシュみたいに明るい色味の天然木材が主流でしょ。 でもあなたのベンチは色味が暗くて、まるで重厚な和風家具みたい」 |
男性: | 「な・・」 |
女性: | 「あと、プロポーションがアンバランスだわ。 チェア自体が大きい割に、座面の高さが低すぎる。 北欧のダイニングセットは、家族や友人が集まる“ソーシャルスペース”。 座り心地やテーブルとの相性をもっと考えるべきじゃないですか?」 |
男性: | 「この・・言わせておけば・・」 しかし、確かに言われることには筋が通っている。 そもそも僕はまだプロのインテリアデザイナーじゃない。 今回、プロアマ問わずに作品を募っていたワークショップに出品したんだ。 僕は大手の建設コンサルタント会社で働く建築設計士。 まだ4年目だけど、二級建築士の資格を持って建築図面を引いている。 でも今日のワークショップは仕事じゃない。 実はいま、インテリアデザインの勉強をしているんだ。 それで、『北欧デザイン』をテーマにしたこのワークショップに 作品を作って応募したってわけ。 撃沈。 苛立って睨みつける僕に、彼女は余裕の笑みを返してきた。 |
<シーン2/レゼンルームの環境音> | |
SE | (プレゼンルームの環境音) |
女性: | 「今回の会長宅のリフォームでは、北欧スタイルを取り入れたいと思います。 自然素材の家具と柔らかな間接照明を活かした温かみのある空間。 リビングには、明るいオーク材のフローリングと、 シンプルなラインのソファを中心に、家族が集まりやすい配置を考えました。 壁面は自然光を反射するためのライトグレーのペイント。 昼間でも柔らかな光が部屋全体に広がるようにしています・・」 |
会長: | 「北欧スタイルねえ。 良さはわかるんだけど、ちょっと軽くないかね」 |
女性: | 「もちろん、会長のおっしゃる重厚感も大切だと考えています。 ダイニングにはウォールナットのテーブルを配置して、 高級感と重厚感を演出しました」 |
会長: | 「ウォールナットも悪くないんだけどなあ。 なんかピンとこないんだよ」 |
女性: | 「そうですか・・」 |
男性: | 「会長」 |
会長: | 「ん?きみは?」 |
男性: | 「建築士の設計コンサルタントです」 |
女性: | 「え?あなた・・・」 プレゼンルームの隅っこから声をあげたのはこの前ワークショップにいた青年。 |
男性: | 「会長、お孫さんはいらっしゃいますか?」 |
会長: | 「ああ、いるよ。まだ小学生だけど」 |
男性: | 「さきほど彼女、”家族が集まる場所”って言いましたよね。 ウォールナットは見た目の重厚感だけでなく、すごく耐久性が高い素材なんです。 例えば、お孫さんがテーブルの上で宿題をしたり、絵を描いたりしても、傷がつきにくい。 汚れにも強いから、食べこぼしても簡単に拭き取れます」 |
会長: | 「ほう」 |
男性: | 「ウォールナットはオーガニックで環境にも優しい。 化学処理が少なく、天然のままの風合いを生かしているので、 お孫さんが触れても安全です」 |
会長: | 「なるほど」 |
男性: | 「何より、ウォールナットは長年使い込むほどに味わいが増します。 家族が集まるたびに、このテーブルに思い出が刻まれていく。 ウォールナットと一緒に家族の年輪を刻んでいってはどうですか?」 |
会長: | 「うむ」 |
女性: | 言い終えたあと、彼は一瞬私の方へ視線を送り、ウィンクした。 あのとき私、あんなに厳しいこと言っちゃったのに。 でも、居心地の悪さより、救ってくれた嬉しさの方が勝(まさ)った。 施主も私たちも英顔でプレゼンルームをあとにする。 この一件以来、私と彼の距離は急速に縮まった。 彼は25歳。私よりひとつ年下。 設計コンサルタントとして働きながら、 インテリアデザイナーを目指している。 私たちは食事を共にする仲となり、 コーディネーターとデザイナーとしてリスペクトし合いながら 季節が巡っていった。 |
<シーン3/1年後のクリスマス> | |
SE | (街角の環境音/クリスマスソング) |
女性: | 「あのベンチ、なあに?」 |
男性: | 彼女と一緒に過ごすようになってから最初のクリスマス。 インテリアコーディネーターとインテリアデザイナーのデートスポットは・・・ そう、インテリアショップ。 最近の家具屋さんはオシャレなところが多いし、僕たちはここにいれば、何時間でも過ごすことができた。 |
女性: | 「昨日まであんなんなかったよね?」 |
男性: | そのベンチは、リビングとダイニングの真ん中。 部屋と部屋の間に置かれていた。 |
女性: | 「なんか、書いてある・・・ ノルディックベンチ?」 |
男性: | 「君の好きな北欧スタイルだね」 |
女性: | 「ノルウェーのアルタ。 『北極の町』の教会に置かれていたベンチだって」 |
男性: | 「へえ〜。なにか謂れがあるのかな」 |
女性: | 「悲恋伝説らしいわ。 その代償として、このベンチに座るカップルは結ばれる・・」 |
男性: | ドキっとした。 実は僕のカバンには、辞令が入っている。 東京支社への転勤の辞令。 僕は今日、それを彼女に告げなければならない。 |
女性: | 「どうする?」 |
男性: | 「いいじゃん。座ろうよ」 |
女性: | 「うん」 |
男性: | 僕がベンチに腰掛けると、彼女もゆっくりと腰をおろした。 |
女性: | 「実はね、話したいことがあるの」 |
男性: | 「え・・」 |
女性: | 「私、いまの会社、ハウスメーカーに入ってから ずうっと海外勤務希望申請をだしてたの、知ってるでしょ」 |
男性: | 「うん・・」 |
女性: | 「それがね、急に決まっちゃったのよ」 |
男性: | 「あ・・・」 |
女性: | 「来年の春、LAに支社を開設するんだって」 |
男性: | 「そう・・・」 |
女性: | 「申請だしてたのさえ、忘れてたのに」 |
男性: | 「よ、よかったじゃないか・・・」 |
女性: | 「強制ではないんだけど、独身だと断りにくいから」 |
男性: | 彼女の言葉が途切れたのをきっかけに、僕も彼女に告白する。 |
男性: | 「実は僕も君に話があるんだ・・・」 |
女性: | 「え・・」 |
男性: | 「これを見てほしい」 |
女性: | 「なに」 |
男性: | 転勤の辞令を彼女に手渡す。 |
女性: | 「東京・・転勤・・・?」 |
男性: | 「来年早々から」 |
女性: | 本社勤務、ってことは栄転ね」 |
男性: | 「まあ、そうなるかな」 |
女性: | 「おめでとう」 |
男性: | 「いや、いかない」 |
女性: | 「え?」 |
BGM | 「インテリアドリーム」 |
男性: | 僕は彼女から辞令を返してもらう。 そして、目の前で、それを破った。 |
女性: | 「なにしてんの?」 |
男性: | 「なにって、辞令を破いてるんだよ」 |
女性: | 「どうして?」 |
男性: | 「僕がインテリアデザイナーを目指しているの、 君が一番知ってるじゃないか」 |
女性: | 「でも・・」 |
男性: | 「これでやっと踏ん切りがついた」 |
女性: | 「そんな・・」 |
男性: | 「だから、君の海外勤務は・・・」 |
女性: | 「もう断ったわ」 |
男性: | 「え?」 |
女性: | 「結婚する、ってウソついちゃった」 |
男性: | 「それ、ウソじゃない」 |
女性: | 「え?」 |
男性: | 「結婚しよう」 |
女性: | 「本気?」 |
男性: | 「もちろん。返事は?」 |
女性: | 「Yes!に決まってるじゃない」 |
男性: | なんだか、いままで悩んでたことがおかしくなる。 ノルディックベンチ。 説明書きにあるように「永遠の愛を守る」という伝説は生きているようだ。 『永遠の愛を守る』ノルディックベンチに座って 僕たちは未来を語り合った。 |
SE | (教会の鐘の音) |