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ボイスドラマの内容
登場人物
- 娘(16歳/24歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター
- 父(59歳/67歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に
Story〜「父の運動会〜食卓のバトンリレー/後編」
<シーン1/娘16歳/父59歳> | |
娘: | 「ただいまぁ」 |
父: | 「おかえり!」 娘が疲れた顔で帰ってくる。 今日も陸上部でトラックを何周も走ってきたのだろう。 |
娘: | 「おなかすいたぁ。晩ご飯なあに?」 |
父: | 「お前の大好きな鶏飯だよ」 |
娘: | 「やったぁ」 |
父: | 「さ、汗かいただろうから、先にシャワー浴びてきなさい」 |
娘: | 「うん!秒で入ってくるからすぐ準備して!」 |
父: | 「急がなくていいからゆっくり温まってきなさい」 まったく、また訳のわからない若者言葉を使って・・・。 ああ、それに答えてる私も私か、ははは。 娘は高校1年生。 陸上部に所属してトラック競技の全国大会を目指している。 毎日、早朝の朝練と放課後の部活動。 だから、妻が海外勤務で家を留守にしているいまは 私が朝夕の食事を支度する。 私自身、経営していた会社をリタイアして、若手に道をゆずったばかり。 だからこそできる、アスリートのアシストなのである。 |
娘: | 「おっまたせ〜」 |
父: | 「ちゃんと髪の毛かわかさないと、風邪ひくぞ」 |
娘: | 「わっかりました〜」 |
父: | いつもの、わかっていないときの言い方だな。 しょうがないなあ。 |
父: | 「はい、鶏飯」 |
娘: | 「わ〜、いい匂い〜」 |
父: | 「今日はささみにシイタケ、パパイヤの味噌漬けとのりを入れてみた」 |
娘: | 「すごつ、アスリートのレシピじゃん」 |
父: | 「それからぶり大根に、」 |
娘: | 「わ、旬の先取りだね」 |
父: | 「さつまあげ」 |
娘: | 「私の好きなものばっかり」 |
父: | 「今日のさつまあげは、ハモのすり身だぞ」 |
父: | 「この食卓、たくさんおかずを置いても広々としてていいだろ」 |
娘: | 「そりゃあ、アンカーの私が選んだインテリアだもの」 |
父: | 先日までダイニングにあった食卓は、船便で妻の住む海外へ渡っていった。 その代わりにバトンを受けついたのが、この楕円形の食卓だ。 娘と2人で使うには少し大きいかもしれないが、 あえてこのサイズを選んだのには訳がある。 食卓、というのは家族が集まる場所。 大きな食卓と座り心地のいいチェアでゆったり時間を過ごす。 食卓を中心に、家族が向かい合って、家族の時間を大事にする。 こうやって、家族の絆=ぬくもりを大切に守っていきたい。 いつまでも・・・ |
娘: | 「パパ、陸上トラックの全国大会、見にきてくれる」 |
父: | 「もちろんさ、リレーはアンカーなんだろ」 |
娘: | 「そうだよ、3位以内でバトンを渡してくれれば、 絶対にトップに出る自信はある!」 |
父: | 「そりゃ頼もしいな」 |
娘: | 「優勝したら、そのバトンはパパに渡すからね」 |
父: | 「そんなことできないだろ」 |
娘: | 「いいの、大会運営の人に頼んじゃうから」 |
父: | 父親の私が言うとただの親バカになるが、娘はすごい。 大会当日、本当に1位になり、私にバトンを渡してくれた。 そのバトンは、娘が24歳になったいまも食卓の上を飾っている。 |
<シーン2/娘24歳/父67歳> | |
娘: | 「ただいま」 |
父: | 「おかえり」 一人暮らしをしている娘が、半年ぶりに実家に帰ってきた。 娘の仕事は、スポーツインストラクター。 陸上部にいたときのスキルを生かしてスポーツジムで働いている。 いろいろ疲れているのだろう。 部活帰りでも元気に笑って帰ってきた高校時代とは違い、 口数も少ないまま、食卓に座る。 |
娘: | 「パパ、このバトン・・・」 |
父: | 「ああ、お前からもらった一点モノだよ」 |
娘: | 「あの頃は、なんだってできる気がしてたなあ」 |
父: | 「いまだってできるさ」 |
娘: | 「そう簡単じゃないのよ。仕事となると」 |
父: | 「おお、一人前の口をきくようになったじゃないか」 |
娘: | 「ふざけないでよ」 |
父: | 「ふざけてないさ。 おまえには、お父さんから受け取ったバトンがあるだろ」 |
娘: | 「なにそれ」 |
父: | 「『家族のぬくもり』というバトンだよ」 |
娘: | 「家族のぬくもり?」 |
父: | 「お前が一人暮らしを始めるとき、家具屋さんで食卓を買ったろ?」 |
娘: | 「うん」 |
父: | 「食卓があれば、お父さんやお母さんの温もりがつながっていくんだよ」 |
娘: | 「うん」 |
父: | 「これから先、好きな人ができて、住むところが変わり、 食卓も大きなサイズが必要になったとき、 ぬくもりのバトンは、また受けつがれていく」 |
娘: | 「うん・・・」 |
父: | 潤んでいく娘の瞳の中に、食卓のバトンが滲んでいる。 食卓を通じて、家族のぬくもりは消えることはない。 家族のぬくもりというリレーは、こうして未来永劫つながっていく。 |