「父の運動会〜食卓のバトンリレー」後編 2023年10月

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ボイスドラマの内容

登場人物

  • 娘(16歳/24歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター
  • 父(59歳/67歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に

Story〜「父の運動会〜食卓のバトンリレー/後編」

<シーン1/娘16歳/父59歳>
娘:「ただいまぁ」
父:「おかえり!」

娘が疲れた顔で帰ってくる。
今日も陸上部でトラックを何周も走ってきたのだろう。
娘:「おなかすいたぁ。晩ご飯なあに?」
父:「お前の大好きな鶏飯だよ」
娘:「やったぁ」
父:「さ、汗かいただろうから、先にシャワー浴びてきなさい」
娘:「うん!秒で入ってくるからすぐ準備して!」
父:「急がなくていいからゆっくり温まってきなさい」

まったく、また訳のわからない若者言葉を使って・・・。
ああ、それに答えてる私も私か、ははは。
娘は高校1年生。
陸上部に所属してトラック競技の全国大会を目指している。
毎日、早朝の朝練と放課後の部活動。
だから、妻が海外勤務で家を留守にしているいまは
私が朝夕の食事を支度する。
私自身、経営していた会社をリタイアして、若手に道をゆずったばかり。
だからこそできる、アスリートのアシストなのである。
娘:「おっまたせ〜」
父:「ちゃんと髪の毛かわかさないと、風邪ひくぞ」
娘:「わっかりました〜」
父:いつもの、わかっていないときの言い方だな。
しょうがないなあ。
父:「はい、鶏飯」
娘:「わ〜、いい匂い〜」
父:「今日はささみにシイタケ、パパイヤの味噌漬けとのりを入れてみた」
娘:「すごつ、アスリートのレシピじゃん」
父:「それからぶり大根に、」
娘:「わ、旬の先取りだね」
父:「さつまあげ」
娘:「私の好きなものばっかり」
父:「今日のさつまあげは、ハモのすり身だぞ」
父:「この食卓、たくさんおかずを置いても広々としてていいだろ」
娘:「そりゃあ、アンカーの私が選んだインテリアだもの」
父:先日までダイニングにあった食卓は、船便で妻の住む海外へ渡っていった。
その代わりにバトンを受けついたのが、この楕円形の食卓だ。
娘と2人で使うには少し大きいかもしれないが、
あえてこのサイズを選んだのには訳がある。

食卓、というのは家族が集まる場所。
大きな食卓と座り心地のいいチェアでゆったり時間を過ごす。
食卓を中心に、家族が向かい合って、家族の時間を大事にする。
こうやって、家族の絆=ぬくもりを大切に守っていきたい。
いつまでも・・・
娘:「パパ、陸上トラックの全国大会、見にきてくれる」
父:「もちろんさ、リレーはアンカーなんだろ」
娘:「そうだよ、3位以内でバトンを渡してくれれば、
絶対にトップに出る自信はある!」
父:「そりゃ頼もしいな」
娘:「優勝したら、そのバトンはパパに渡すからね」
父:「そんなことできないだろ」
娘:「いいの、大会運営の人に頼んじゃうから」
父:父親の私が言うとただの親バカになるが、娘はすごい。
大会当日、本当に1位になり、私にバトンを渡してくれた。
そのバトンは、娘が24歳になったいまも食卓の上を飾っている。
<シーン2/娘24歳/父67歳>
娘:「ただいま」
父:「おかえり」

一人暮らしをしている娘が、半年ぶりに実家に帰ってきた。
娘の仕事は、スポーツインストラクター。
陸上部にいたときのスキルを生かしてスポーツジムで働いている。

いろいろ疲れているのだろう。
部活帰りでも元気に笑って帰ってきた高校時代とは違い、
口数も少ないまま、食卓に座る。
娘:「パパ、このバトン・・・」
父:「ああ、お前からもらった一点モノだよ」
娘:「あの頃は、なんだってできる気がしてたなあ」
父:「いまだってできるさ」
娘:「そう簡単じゃないのよ。仕事となると」
父:「おお、一人前の口をきくようになったじゃないか」
娘:「ふざけないでよ」
父:「ふざけてないさ。
おまえには、お父さんから受け取ったバトンがあるだろ」
娘:「なにそれ」
父:「『家族のぬくもり』というバトンだよ」
娘:「家族のぬくもり?」
父:「お前が一人暮らしを始めるとき、家具屋さんで食卓を買ったろ?」
娘:「うん」
父:「食卓があれば、お父さんやお母さんの温もりがつながっていくんだよ」
娘:「うん」
父:「これから先、好きな人ができて、住むところが変わり、
食卓も大きなサイズが必要になったとき、
ぬくもりのバトンは、また受けつがれていく」
娘:「うん・・・」
父:潤んでいく娘の瞳の中に、食卓のバトンが滲んでいる。
食卓を通じて、家族のぬくもりは消えることはない。
家族のぬくもりというリレーは、こうして未来永劫つながっていく。
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