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ボイスドラマの内容
登場人物
- 母(40歳/65歳)・・・主婦/妻とは学生時代、東京で出会い、名古屋で結ばれた
- 父(44歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった
Story〜「変わらないもの/父のソファ/後編」
<シーン1/自宅キッチン-リビングにて(母65歳/父69歳)> | |
父: | 「もう、こんな時間か・・・あの子、まだ帰らないのか」 |
母: | 「ええ。なんでも最近新しくオープンするセレクトショップで 新ブランドの開発をまかされたそうよ」 |
父: | 「ああ、そういえば、そんなこと言ってたっけな」 |
母: | 「さっきメールで、夕ご飯もいらないって」 |
父: | 「まったく、いくつになっても心配ばっかりかけて」 |
母: | 「しようがないでしょ。あなたの娘(こ)だもの」 |
父: | 娘がインテリアコーディネーターになった。 それは、私も妻も家具が大好きだったからかもしれない。 私のお気に入りは、3人がけのこのソファ。 大き過ぎもせず、小さくもなく、ちょうどいいサイズと ふかふかの座り心地が私の居場所になっている。 ソファが我が家にやってきたのは、25年前だった |
<シーン2/インテリアショップにて(母40歳/父44歳)> | |
父: | 「眠ったみたいだな」 |
母: | 「あなたが大声ださなきゃ、すぐ寝てくれるわ」 |
父: | 生まれたばかりの娘をベビーカーに乗せて、 家具屋の店内をゆっくりと見てまわる。 お目当ては3人並んで寝られる大きなベッド。 寝室の大きさも考えながら、決めるのに難航していた。 そのとき、私の足がとまったのは・・・ |
母: | 「ソファ?」 |
父: | 「うん、大き過ぎず、小さくもない。 私が真ん中に座って、両横にこの娘と息子が座ってくれたら最高だろうなあ」 |
母: | 「あら、じゃあ私と学校行ってるお姉ちゃんは?」 |
父: | 「同じ柄のひとりがけのソファが2つ、あればいいじゃないか」 |
母: | 「大家族ね」 |
父: | 「ああ、大家族で毎日が楽しくなるぞ」 |
母: | 「この娘と3人で寝られるベッドも忘れずにね」 |
父: | こうして、一目惚れしたソファは、家族の中心となった。 末娘を抱いて真ん中に座る私と、両脇に座る長男長女。 もっちりとした座り心地のソファーは、私たち親子をやさしく包み込んでくれた。 それはまるで家族の思いを抱きしめるように。 私たちの姿を見て妻がニッコリ笑う。 ソファーを中心にして、リビングに笑顔の灯りが灯された |
<シーン3/自宅にて(妻65歳/父69歳)> | |
母: | 「帰ってきたみたいよ」 |
父: | 「まったく」 |
母: | 「優しくしてあげてね」 |
父: | 「わかってる」 |
母: | 「座ったら?」 |
父: | え? あ、そうか・・・ 私は知らず知らず、リビングで立ったままソワソワしていたようだ。 私はようやくソファに腰をおろし、おもむろにテレビをつける。 テレビも、つけていなかったのだな・・・ ふふ・・・。 自分でも気が付かないくらい、娘が心配だったらしい |
SE | (リビングのドアをあける音) |
父: | 「おかえり」 |
娘は必ずリビングに顔を出してから自分の部屋へ行く。 いつも通り・・・に見えるけど、ちょっと、疲れた顔・・・だな。 仕方ない。いろいろストレスもあるだろうから。 私は、トーンを落として声をかける。 「とりあえずソファで休みなさい」 私の声を聴いた娘は、とたんに表情が緩んだ。 笑うとエクボが現れるのは、いまも昔も変わらない。 キッチンから妻が割り込んでくる。 | |
母: | 「ホント、変わらないわね」 |
父: | 「なんだい」 |
母: | 「ソファの真ん中と右端を親娘で占領すること」 |
父: | 「いいじゃないか。親娘なんだから」 |
父: | 娘が生まれたのは、私がまだ町工場を経営していた、44歳のとき。 仕事もちょうど転換期で慌ただしい日々だったが、 夕食後は時間を作り、このソファに座って娘といろんな話をしてきた。 挨拶の仕方、テーブルマナー、言葉遣い、礼儀、作法。 幼いころは泣いたり反抗したりもされたが、 インテリアコーディネーターになった今は、きっと理解してくれているだろう。 ふと気がつけば、上品な笑顔で私をじっと見つめている |
父: | 「なーににやけてるんだ」 |
娘: | 「なーんでもないよ~(笑)」 |
父: | まるで子どものように顔をほころばせて私にもたれてくる娘。 妻と娘と私。家にはいないが、長男長女。 リビングを笑顔で包む家族の幸せに、今日も灯りが灯っていく |