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ボイスドラマの内容
登場人物
- 彼女(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・・
- 彼(25歳)・・・広告会社に勤めて足かけ4年でこの春起業した。Web解析士の資格を取得してホームページ制作・管理とSNSマーケティングの仕事で走り回るが・・・
Story〜「風立ちぬ〜KICHI/後編」
<シーン1/堤防沿いを歩くカップル> | |
SE | (小川のせせらぎ) |
彼女: | 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」 |
彼: | 「なんだい、それ? そんなアニメもあったっけ」 |
彼女: | 「もう〜。 マーケターならそのくらい知っててよ」 |
彼: | 「知ってるよ。詩だろ」 |
彼女: | 「そう。ポール・ヴァレリーの詩。 うちの入所者さんに、この詩が好きな人がいるの」 |
彼: | 彼女は、この春から養護老人ホームで働いている。 仕事はやりがいがあるって言ってたけど、実際には大変そうだ。 肉体的にも精神的にも。 だって、彼女が働き出してから、デートしたのは今日がはじめて。 もう5月だというのに。 体壊さないといいけど。 |
彼女: | 「なあに?黙っちゃって。 あ、また、私の仕事のこと考えてるんでしょ」 |
彼: | 「いや、そうじゃないけど」 |
彼女: | 「うそばっかり。 働き方改革に逆行した ブラックな業界だって言いたいんでしょ」 |
彼: | 「そんなこと思ってないって」 |
彼女: | 「だって、顔に書いてあるんだもん」 |
彼: | 「ひどい誤解だな。 福祉業界が大変だってことくらいわかってるよ」 |
彼女: | 「じゃあ、なんでそんな、眉間に皺が寄るの」 |
彼: | 「君は僕が起業したこと、忘れてない?」 |
彼女: | 「忘れているわけないじゃない。 一緒にお手伝いしたんだもの」 |
彼: | 「うん。すっごく嬉しかった。 書類作るのとか手伝ってくれて。 この恩は一生忘れないよ」 |
彼女: | 「おおげさだなあ。 それで、順風満帆なんでしょ」 |
彼: | 「まあだいたいはね。 いい風が吹いてるよ」 |
彼女: | 「さわやかな大気が海より湧きあがり、わたしに魂を返す」 |
彼: | 「お!ポール・ヴァレリー。 まあ、そうなんだけどね。 一人でやっていくのは大変なんだな、やっぱり」 |
彼女: | 「そうなの」 |
彼: | 「うん。営業も、データの分析もすべてひとりだからな」 |
彼女: | 「ふうん」 |
彼: | あんまり細かく語り出すと、ただの愚痴になっちゃうからなあ。 実際には、自分の労務管理とか経理とかやらなきゃいけないし。 外で打合せしてオフィスに帰ってきてからデータの分析して、レポート作ってると夜中の12時を回っちゃう。 この前なんて目を充血させて打合せしてたら、クライアントが僕の目ばっかり見るもんだから、話が全然進まなかったからなあ。 |
彼女: | 「あ?ひょっとして・・・眠れてないんじゃない?」 |
彼: | 「え」 |
彼女: | 「図星でしょ」 |
彼: | 「あ、まあね。そりゃこのライフスタイル見てたらわかるよなあ」 |
彼女: | 「実は私もついこの前まで不眠症に悩んでいたんだ」 |
彼: | 「そうなの?」 |
彼女: | 「うん。今はぐっすり眠れているけどね」 |
彼: | 「ホント?なにをしたの?」 |
彼女: | 「なら、いまから治療にいきましょうか」 |
<シーン2/インテリアショップ> | |
彼: | 彼女が連れてきてくれたのは、 病院ではなく、なんとインテリアショップ。 放射状にディスプレイされたベッドの前でスリープアドバイザーがわかりやすく説明してくれる。 不眠の症状について。うん。 寝つきが悪く、ベッドに入っても30分以上眠れない。(眠れない) 途中で目が覚めて、なかなか寝付けない。(寝付けてないな) 朝早く目が覚めてしまう。(うん) ぐっすり眠った気がしない。 |
彼女: | 「ちょっと〜、やばくない? 全部あてはまってるじゃん」 |
彼: | それから、不眠の原因。 痛みをともなう関節炎やリウマチ。 花粉症や蕁麻疹。 そして、ストレス。 |
彼女: | 「やっぱストレスだよね」 |
彼: | で、不眠の対処法。 花粉症やアレルギー性鼻炎は薬を処方してもらってる。 ストレスは根本的な原因が自分だから、ライフスタイルを変えるしかない、、、か。 |
彼女: | 「あとできることは、寝具のチェックだね」 |
彼: | そう言って、彼女はウインクした。 片手に測定器を持ったスリープアドバイザーが僕の頭の形を測る。 そうか。 僕の頭、こんな形をしていたんだ。 |
彼女: | 「ひょっとして、枕が高いんじゃない?」 |
彼: | あ、そうかも。 毎朝起きたときに、首とか肩が凝ってるもんなあ。 スリープアドバイザーは僕にフィットする枕をチョイスしてくれた。 マットレスと首の角度が5度っていうのが、快眠へ誘うんだって。 実際に寝てみても、うん首が疲れない感じ。 あぁ、そういうことなんだな。 |
彼女: | 「あなた、オフィスに泊まってたりしてない?」 |
彼: | 「うん。遅くなると帰るの面倒だから」 |
彼女: | 「ってことは、ソファベッドで寝てるでしょ」 |
彼: | 「うん、だって、オフィスにはそれしかないもん」 |
彼女: | 「ソファベッドは仮眠用よ。ちゃんとお家のベッドで寝なさい」 |
彼: | 「うん、わかってる」 |
彼女: | 「そのマットレスも要検討かな」 |
彼: | 「え?なんで?」 |
彼女: | 「まあまあまあ。このベッドに寝てみて」 |
彼: | 言われるまま横になる。 あれ? ふにゃふにゃってわけじゃないのに、体が包み込まれる感覚。 |
彼女: | 「どんな感じ?」 |
彼: | 「(うん)力がすうっと抜けていく感じ」 |
彼女: | 「ポケットコイルって言うんだって」 |
彼: | 「へえ〜」 |
体圧分散性が高い、というのが売りらしい。 確かに、骨の部分がゴツゴツあたる感じも全然ないし、自然な寝心地。 | |
彼女: | 「硬さも選べるらしいよ」 |
彼: | 「僕は硬めがいいな」 |
彼女: | 「ふふふ」 |
彼: | 「どうしたの?」 |
彼女: | 「私とおんなじ」 |
彼: | この感覚、すごく気持ちがいいな。 今日家に帰ったら、思い出して比べてみよう。 彼女は無理にすすめるわけでもなく、ただただ僕をみつめて笑っていた。 |
<シーン3/公園のベンチに佇むカップル> | |
SE | (小鳥のさえずり) |
彼女: | 「で、結局マットレスはどうしたの?」 |
彼: | 「うん、ナイショ」 |
彼女: | 「もう〜」 |
彼: | 「でも、不眠は治ったよ」 |
彼女: | 「え?じゃあ・・・」 |
彼: | 「今度、うちへ遊びにおいでよ」 |
彼女: | 「ふふ。社会福祉士の試験に合格したらね」 |
彼: | 「試験っていつだっけ?」 |
彼女: | 「来年の春よ」 |
彼: | 「そうか。 それじゃあ僕もそれまでにいろいろ準備しなきゃ」 |
彼女: | 「まだやらなきゃいけないことがあるの?」 |
彼: | 「ああ。すっごく大事なことがね」 |
彼女: | 「なあに?」 |
彼: | 「うん、それも内緒」 |
彼女: | 「ひどーい」 |
彼: | 「まず最初にしないといけないのは・・・」 |
彼女: | 「もう〜。もったいぶらずに教えてよ」 |
彼: | 「君の家にご挨拶にいく」 |
彼女: | 「え・・・」 |
BGM | ♪インテリアドリーム |
彼: | 「ご両親、お付き合いを認めてくれるかな」 |
彼女: | 「・・・いきなりだとびっくりするかもね」 |
彼: | 「じゃ君からマーケティングリサーチしておいてよ」 |
彼女: | 「やあねえ、その言い方」 |
彼: | 「ちなみに、お父さんってこわい?」 |
彼女: | 「私にはすっごく優しいわよ〜。 きっと彼氏には ちょっと強面だけど」 |
彼: | 「強面・・・ようし。 風を思いっきり吸い込んで立ち上がるぞ。 風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」 |
彼女: | 「ふふ。ありがとう」 |
彼: | 彼女の表情は終始明るかった。 僕は自分の胸に誓う。 これからもその笑顔のために生きねばならぬ。と。 |